開催時間 |
11時00分 - 20時00分
初日のみ13:00から |
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この情報のお問合せ |
Room_412
Tel: 050-5319-8428 E-mail: info@room412.jp 担当:伊東 |
イベントURL | |
情報提供者/投稿者 |
住所 |
〒150-0031 東京都
渋谷区桜丘町15-8 高木ビル412号室 |
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最寄り駅 | 渋谷 |
電話番号 | 050-5319-8428 |
ぼくたちは、世界がどのようなものなのか、また自分がどこにいるかを伝えたりするときに地図を用いる。地図とは、地球表面の一部あるいは全部の状況を記号化し、表象として表したものである。またそこには制作者の視点や思考も反映される。地図を作り人に見せることは、それらも含めた情報の交換でもある。
今までに「完全な地図」と「不完全な地図」があった。前者は幻想としてのみ存在し、後者は地図としてというより個人的な道標になりつつある。現代を生きるぼくたちには、ぼくたちの地図が必要だ。そしてそれは、「未完全な地図」なのではないだろうか。
地図には、例えば初めてここに訪れたあなたが頼ったグーグルマップのように全て均一に測量し他者を一つの世界観に組み込む「完全な地図」を志向するものがある。それは全体なるものの視野を把握し発明することで、混乱と複雑性を飼い慣らそうとしていた。
それに対して、状況主義者たちは世界を単一のものではないものとして描写する「不完全な地図」を作った。それは、偶然にまかせながら都市でうごめき日常的な意識を切断する「漂流」という形式で街を観察することで、都市ネットワークの裂け目を認識しデータの集積とは違う地図の制作を可能とする。この試みは「完全な地図」が「完全」たり得ないこと、またそれを目指すことの過ちを暴露したものでもあっただろう。
一つの世界観に対する複数の断片的な世界観。その二つの世界観は対立関係だとされがちだが、本当にそうだろうか。あなたが観察した街を地図化したものは個人的なものだが、それについて他者と語ろうとするときは、一般的に伝わるものでもある必要がある。この個人的でありつつ一般的にもなり得るような地図が「未完全な地図」だ。
駅前を広告が覆う再開発が盛んな渋谷の街並みは訪れるたびに変わっていく。それは常に文字(エクリチュール)が書き換え続けられる言説(ディスクール)と言える。たまに訪れては街を遊歩してなんとなくその言説を読んでいるぼくたちは、コロナ以降ようやく最近になって回復の兆しを見せ始めた「観光客」のような存在だろう。「観光客」は他者として訪れた旅先をなんとなく読むのでその土地について完全に理解することはできない。そしてそのような「観光客」的な態度のぼくたちがその認識の範囲内で観察し、個人の持ちうる語彙によって作る地図もまた、対象を正しく表象しきれていないため「不完全」になるだろう。
一方で既存の記号やグーグルマップ、実際の風景や音を用いており、それは一つの実在する空間を前提にしている。ぼくたちの地図は結果的に「完全」に近づこうとしているのかもしれない。
そのような両義性を持ちつつ、本展は生成変化し続ける主体としての磯崎が生成変化し続ける街を現時点で仮固定して表したものであり、家入が地図(本展)があり得たかもしれない可能性を孕んでいることを示唆するものである。それを踏まえて、本展は今は未だ「不完全」だが、結果的に「完全」になるかもしれない地図を作り続けるというある種の表明であり、それを「未完全な地図」と名付けるものである。