ゴヤからピカソ、そして長崎へ 芸術家が見た戦争のすがた
開催概要
- 会期
- 2025年07月19日 〜 2025年09月07日
- 会場
- 長崎県美術館 (長崎県長崎市出島町2番1号)
- 参加クリエイター
- Pablo Picasso / 青木野枝 / 森淳一 / Francisco José de Goya y Lucientes / 藤田嗣治 / 丸木俊(赤松俊子) / 東松照明 / Jean Fautrier / 香月泰男 / 北川民次 / 飛永頼節
- ジャンル
- アート
開催内容
芸術家たちが描いた作品を通して、被爆80年を迎える長崎から問いかける
2025年は長崎県美術館開館20周年という記念すべき年であるとともに、長崎にとって被爆80年という節目の年です。長崎県美術館は、被爆地・長崎に在る美術館として、このたび戦争をテーマとした展覧会を開催します。
人類の歴史は戦争の歴史といっても過言ではないでしょう。古今東西、戦争は途絶えることなく繰り返されてきました。今もなお、世界では凄惨な戦争が続いています。共通するのは、権力者たちによる強硬な姿勢の影で、子どもたちを含む多くの民衆が犠牲となっていることです。こうした切実な現状を受け、長崎県美術館では、原爆のみならずむしろそれを引き起こした戦争に焦点を当てます。そしてスペイン美術を標榜する美術館として、収蔵作品であるフランシスコ・デ・ゴヤの版画集〈戦争の惨禍〉を中心に据え、そこから抽出されるテーマに沿って展覧会を構成します。
〈戦争の惨禍〉において、ゴヤの最大の関心は特定の事件を描くことよりもむしろ、それらを通じて露わとなる人間の暴力性、残忍性、絶望や狂気など、戦争が持つ普遍の性質へと向かいました。そしてなによりも、戦争の真の犠牲者である名もなき民衆たちの死が赤裸々に描かれていることがこの版画集の最大の特徴といえるでしょう。〈戦争の惨禍〉の世界観は、戦争という負の連鎖を断ち切ることのできない現在だからこそ存在感を示すのです。
本展では、ゴヤの〈戦争の惨禍〉全点とともに、他の芸術家たちが戦争をどのように視覚化してきたかを、約180点の作品によって考察します。
[見どころ]
1 ゴヤが見た戦争のすがた
フランシスコ・デ・ゴヤの版画集〈戦争の惨禍〉全82点を展示すると同時に、対仏独立戦争中に描かれた油彩画をスペイン国立プラド美術館から特別に借用し、紹介します。ゴヤの《死した七面鳥》、そしてゴヤに帰属されている《巨人》の両作は、これまで戦争に関連付けて語られてきました。本章では、18‒19世紀にかけて活動したスペインの巨匠ゴヤが戦争をどのように見ていたかに迫ります。
2 人間の暴力、そして狂気
この章では藤田嗣治の戦争画やパブロ・ピカソの作品を取り上げ、戦争がいかに人間を暴力、そして狂気へと駆り立てるのかに焦点を当てます。そして戦争が人間の理性を崩壊させていくさまを検証します。
3 無垢なる犠牲、名もなき民衆の死、性暴力
どの戦争も為政者が掲げた大義名分のもとに行われますが、実際の戦場において必ずしもそれが常に意識されることはありません。あるのは暴力だけであり、またそれによる名もなき兵士や民衆たちの死です。この章では実際の戦場で起こる悲惨な死や性暴力、そして不条理に焦点を当てます。
4 身体に刻まれた傷
身体に刻まれた傷は、精神にも癒えることのない傷跡を残します。ジャン・フォートリエは、ナチスにより過酷な拷問を受けた人々を〈人質〉シリーズとして描きました。1961年に長崎を初めて訪れた写真家・東松照明は、ケロイドの残る被爆者たちに寄り添い、終わることのない彼らの苦しみ、そして生をありのままに撮影しました。
5 飢えと困窮
戦争ではしばしば、過酷な食糧難に陥ります。戦後のシベリア抑留を経験した香月泰男は、収容所での過酷な食糧事情からくる飢餓を題材に描きました。人間性をも奪う耐え難い空腹感は、戦争が及ぼす大きな災いの一つでしょう。
6 「私は見た」―目撃者としての視点
〈戦争の惨禍〉に《私は見た》という作品がある通り、ゴヤは目撃者としての立場から描写しました。そこでこの章は、原爆の目撃者たちの作品で構成します。長崎原爆投下の翌日に市内に入りその惨状を記録した山端庸介の写真、そして山田栄二の水彩画をはじめ、病に冒されながらも制作活動を続けた被爆者たちの作品を紹介します。
7 記憶の継承
戦後80年を迎えるにあたり、被爆の実相を伝え得る被爆者たちが次々とこの世を去っている現状があります。これまで以上に記憶の風化が叫ばれる現在、被爆体験の記憶の継承は大きな課題となっています。現代のアーティストたちはそうした現状を受け、様々な角度から被爆の実相にアプローチし、芸術表現へと昇華させています。本展では、数あるアーティストの中から、長崎にゆかりの深い森淳一と青木野枝を取り上げます。
■特別出品
本展会期中、パブロ・ピカソ《ゲルニカ》の原寸大複製陶板を当館エントランスロビーに特別展示します。
《ゲルニカ》とは
ピカソが、スペイン内戦中の1937年、パリ万国博覧会のスペイン館の壁画を依頼されて制作した作品です。当初は政治的なスローガンとはかけ離れた主題の絵画を描く予定でしたが、同年4月26日にバスク地方の都市ゲルニカが反乱軍のフランコ将軍を支援するドイツ空軍によって空爆されたのをきっかけに、この無差別爆撃を激しく糾弾する絵画を驚くほどの短期間で仕上げました。
《ゲルニカ》は、ピカソの最高傑作であるのみならず、「戦争の世紀」といわれた20世紀を象徴する絵画であるといえます。
このたび本展の特別出品としてエントランスロビーに展示される原寸大の複製陶板は、1997年に大塚オーミ陶業株式会社によって製作されました。同年7月に、完成した複製陶板を確認するために来日したピカソの息子クロード・ピカソが「今まで製作した複製の中でも最高の出来」と高く評価したように、本作はその完成度の高さから、原作が持つ絵画的な迫力、そしてそれが放つメッセージを十分に想像させるものです。