稲富 淳輔 展 『月よむ花』

開催概要

会期
2011年04月27日 〜 2011年05月15日
会場
neutron tokyo (東京都港区南青山2丁目17-14)
参加クリエイター
稲富淳輔
ジャンル
その他
タグ
レセプションパーティー、陶磁、平面

開催内容

本来は陶芸作家でありながら、人間の内に潜む満たされぬ「うつわ」を考察し、
近年はオイルパステルを使った平面にも挑戦する異色の作家。
その質感と素朴な存在感はメディアを変えても普遍的な「うつわ」の在り方を指し示し、
鑑賞者の心の奥底に静かに浸透する。
前回好評だった2009年以来の登場は、用途性のある「陶器」も出展予定とのこと。お見逃しなく!

[主催者コメント]
 若手の陶芸ムーブメントが盛んであるが、それとは全く一線を画した、なんともユニークな作家をここにご紹介したい。稲富淳輔は京都造形大学在学当時から地味で素朴なオブジェを作り、インスタレーションとして展示する手法で一部の評価を得、卒業後は東京、京都、神戸の個展を成功させて着々と足場を固めている。昨年末には妻である画家・忠田愛との共同アトリエ兼自宅を滋賀県に移し、より広く制作スペースを設けることに腐心してきた。だが彼は巷を賑わす器や茶道具と言った用途のあるものを作っている訳ではなく、かといってバブルの時代にそこかしこに設置された無駄に大きなオブジェを誇らしげに見せる訳でもない。

 彼が生み出すフォルム(造形)は、紛れも無く壜(びん)や壷といった、日頃私達が親しんでいるそれの姿である。無垢な表面の質感は滑らかで人間の皮膚のようにも感じられ、実はそこに何重にも重ねて焼かれ、磨かれ、彩色された跡を知るとき、あるいは手に持ってみて予想外の重量に驚いたとき、私達は彼が作りたい物はいわゆる日常の道具としての容れ物(器)ではなく、あくまで造形物としての「うつわ」
であることに気付くだろう。事実、例えば壜のような形をして見える作品には、焼き物には不可欠な空気穴として最低限の穴こそ上部に空いているとはいえ、とても牛乳やお酒を入れるためのものとは言えない。だがしかし、彼にとって内部は空洞でなければ「うつわ」としての意味を為さないため、やはり構造的には限りなく私達の使う壜と近い。内部に空洞を持つ形態に留まらず、彼はカップや碗のようなものも作る。それらは彼の意図を知らなければ、用途を思わずにはいられない形状なのだが、しかしやはり、彼は使うためにそれを作ってはいない。それらはあくまでも存在として、概念としての「うつわ」なのだ。

 それを一段と強調するように、近年彼は絵を描いている。もはやここに至っては「陶芸作家」と呼ぶことすら躊躇しそうになる。いや、彼は「うつわ作家」なのだろう(もちろん用途性の無い、形而上的な「うつわ」を作る者として)。オイルパステルでぐいぐいと力強く描くそれは、やっぱりあまり色気の無い、地味な、しかしなぜか味わいのある「うつわ」達である。全くもってその印象は、彼が土を焼いて生み出す立体的な
「うつわ」と同質の印象を持っている。つまりは、彼の描く絵もオブジェも、表現したいものとしての方向性は全く一致していると言えるだろう。その証拠に、既に昨年の京都個展(neutron)でも壁に絵を一点、その足元の床にオブジェを一点(または数点の組み合わせ)と言った具合に、実直なまでに対比させる手法で展示してみせた。その印象は、自身のポートレート写真や肖像画の前に佇む本人、といった具合で
ある。果たしてどちらが本体で、どちらが映し姿なのか、それすらもぼんやりとしてくるが…。

 おそらく稲富にとっては立体的にも平面的にも表せるものであり、かつ充分とは言えない何かが、「うつわ」のイメージそのものなのだろう。私達人間のような個体差や内面的な個性を有するキャラクターとして見ることも可能であるし、あるいは何かが満ちる(満たされる)ことを期待する「容れ物」としての存在、すなわち(それを満たす液体が無い以上)未完・不足であり続ける姿、とも考えられる。だがそれならば、
この「うつわ」達には何が満たされれば良いと言うのだろう。物質を離れて概念上の存在として考えれば、そこに入るべきは思想、知識、経験、感情のようなものかも知れない。あるいは水や血液の様な生命維持に欠かせないものであっても良い。だがもっと根源的に、稲富は「うつわ」が人間にとって太古の昔から必要とされてきた何かであることを伝えたいと思っている。日用の道具として、神器として、政(まつりごと)の象徴として、占いのアイテムとして。人間はその「うつわ」に何かを満たす時も、空のままにしておく時も、用いる時も用いざる時も、「うつわ」を傍らに置き愛してやまないという事実こそが、私達が稲富淳輔の作品に魅せられる理由でもある。

                                                                  gallery neutron 代表 石橋圭吾

稲富 淳輔 展 『月よむ花』