N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅
開催概要
開催内容
現代アートで巡る、南インドから宇宙まで
N・S・ハルシャは1969年、南インドの古都マイソールに生まれ、現在も同地を拠点に活動しています。南インドの伝統文化や自然環境と真摯に向き合うN・S・ハルシャの独自の創作姿勢は、インド現代美術界が経済成長とともに国際的注目を浴びるなか高く評価され、これまで数多くの国際展に参加してきました。絵画を中心に多彩な表現技法を駆使した作品に通底するのは、ひとの身体に象徴される小宇宙(ミクロコスモス)と森羅万象を包む大宇宙(マクロコスモス)を同時に捉える世界観、そしてこの世の不条理へと向けられた観察者の視点です。
本展では、1995年以降の主要作品約75点(新作を含む)を通し、アーティストの20年間にわたる実践を見つめます。タイトルにある「旅(ジャーニー)」は、アーティストの人生の歩みだけでなく、マイソールから見たインドの経済発展、伝統と現代の往来、日常の営みから宇宙的視点への拡がりなど、多様な「旅」を示唆します。世相や状況を批評的かつユーモラスに描くことにより、N・S・ハルシャはこの世の皮肉も愛も逆説もすべて含んだ魅力を「チャーミングな旅」として伝えてくれるのです。
マイソールというローカルな地点に根差したN・S・ハルシャの視点は、これまで主流だった欧米的な近現代美術の解釈や枠組みからアートを解放し、時空間を超え、より普遍的なものへと導いてくれるでしょう。
企画者のメッセージ
N・S・ハルシャは、1969年、南インドの古都マイソールに生まれ、1990年代には進歩的教育で国際的に知られるヴァドーダラの美術大学で学び、現在はマイソールを拠点に活動しています。インドの現代アート・コミュニティが、経済成長とともに国際的な注目を浴びるなか、N・S・ハルシャもこの10年間に各地の「インド現代美術展」を含む数多くの国際展に招待されてきました。その一方で、南インドの伝統文化や自然環境、人間と動植物との関係など自らを取り巻く生(ライフ)と真摯に向き合いながら、独自の立ち位置を確立してきた作家でもあります。
N・S・ハルシャの芸術的実践には、ベールール(Belur)、ハレービドゥ(Halebidu)など、ホイサラ王朝期(11~14世紀)のヒンドゥー寺院にみられる細密彫刻、あるいはマイソール様式のミニアチュールなど、地域に深く浸透した具象造形の伝統から、絵巻の伝統や近代コミックなどに継承された神話や物語の文化、女性が毎朝玄関前に描く砂絵「ランゴリ」など、国際的な現代アートの文脈では語りきれない多様な文化が複雑に編み込まれています。絵画を中心に、ドローイング、彫刻、サイト・スペシフィックなインスタレーションやワークショップなど、多様なメディアを駆使していますが、そこに通底しているのは、身体に象徴されるミクロコスモスと森羅万象を包むマクロコスモスが同時に存在する世界観、そして日々の不条理や両義的な瞬間へ向けられた観察者の視点です。
「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」と題された本展は、彼のこれまでの主要作品が初めて一堂に会するミッドキャリア・レトロスペクティプ(※)です。1995年から2016年までの主要作品を網羅しながら、アーティストの実践の展開を見つめます。タイトルにある「旅(ジャーニー)」は作家自身の人生の歩みにとどまらず、マイソールから見たインドの政治・経済的発展、そして、それと並行する現代のあらゆる地域における社会の変化という旅、日常生活に見る人々の変化、伝統と現代を往来する旅、生物科学的世界観から天文学や宇宙的スケールヘの旅など、さまざまな「旅」を示唆しています。また、ひとつの作品で時に数千人も描かれる人物からも、それぞれの人生を読み解くことができます。そこでは動物や植物などあらゆる生命体とともに、われわれ人間も壮大な宇宙の塵のひとつとして描かれています。また、謎に満ちた宇宙、予測不可能な未来へ向けられたN・S・ハルシャの好奇心も見てとれます。これらの「旅」のプロセスは必ずしもチャーミングなものばかりではありませんが、この世の不条理な出来事や両義的な価値観などに対して、N・S・ハルシャは批評的かつユーモラスな眼差しを注ぎ、それらを「チャーミングな旅」として私たちに伝えてくれるのです。
※ミッドキャリア・レトロスペクティブ:アーティストのキャリアの晩年や没後に開催されるイメージか強い「回顧展」に対して、一定のスタイルを確立した中堅アーティストの数十年間の仕事を網羅的に見せる展覧会。
N・S・ハルシャ
1969年、インド南部、カルナータカ州マイソール生まれ。現在もマイソールを拠点に活動。1995年、進歩的教育で国際的に知られる、ヴァドーダラのマハラジャ・サヤラジオ(MS)大学絵画修士課程修了。ドイツ学術交流(DAAD)奨学金(2012年)を受ける。また、アルテス・ムンディ大賞(2008年)などを受賞。コーチ=ムジリスーピエンナーレ(インド、2014年)、モスクワ現代美術ビエンナーレ(2013年)、堂島リバーピエンナーレ(大阪、2013年)、アデレード・フェスティバル(オーストラリア、2012年)、横浜トリエンナーレ(20目年)、サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル、2010年)などを含む多数の国際展に参加、また2009年にロンドンの国際美術研究所(INIVA)、2008年に東京の銀座メゾンエルメスフォーラムにてそれぞれ個展を開催。他、インド現代美術を包括的に紹介した大型国際巡回展「インディアン・ハイウェイ」(2008年、ロンドン、サーペンタイン・ギャラリー。2012年まで世界5都市巡回)、「チャロー!インディア:インド美術の新時代」(2008年、森美術館。2009年、ソウルとウィーンヘ巡回)にも参加。