記憶のスキャン:袁廣鳴のビデオアート1992-2014
開催概要
- 会期
- 2014年09月06日 〜 2014年10月05日
- 会場
- 三菱地所アルティアム (福岡県福岡市中央区天神1-7-11 イムズ8F)
- 参加クリエイター
- 袁廣鳴
- ジャンル
- 写真
- タグ
- レセプションパーティー、グラフィックス・ビデオアート
開催内容
三菱地所アルティアムでは、台湾をはじめ、国際的に高く評価されるアーティスト袁廣鳴(ユェン・グァンミン)の個展を開催いたします。ビデオアートのパイオニアとして表現の地平を切り開いてきた袁の初期作品から2014年に制作された最新作品《エネルギーの風景》、《占領第561時間目》まで、9つの代表的な作品とビデオ・ドキュメンテーションによって創作を辿ります。 また、本展と同時期には福岡アジア美術館「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」、九州国立博物館「特別展 台北 國立故宮博物院ー神品至宝ー」が開催されます。アジアのアートに注目が集まる中、アルティアムから台湾現代美術のトップランナーの代表作品をミニ・レトロスペクティブ(回顧展)形式を用いて発信します。
袁廣鳴の作品は、常に個人的な日常生活を出発点としてきた。袁の制作は、まず心の中にある何かを捉えるために、極力頭を使わないように努力するところから始まる。手を動かしてみる。風景を見に行ってくる。そうして体感するものを、映像に落とし込んでいく。木工や鉄工を駆使した手作りの撮影装置をはじめ、想像を絶するアナログ/デジタルな作業の積み重ねが、作品を支えている。言葉にならない間隔を、鑑賞者にできるだけ直接そのまま引き渡したいと考えている。それが、作品制作のプロセスにも現れているのである。
袁廣鳴がここ七年ほど取り組んでいるケーブルカムによる直線移動の映像がある。実際に見ないとなかなかわからないかもしれないが、これは、2D映像に空間の要素を大きく取り込み、目や頭による理解を超えた、鑑賞者の身体的な映像体験を強く促す、袁廣鳴の映像形式である。投影された金魚がただ皿の中で泳ぐだけの《フィッシュ・オン・ディッシュ》(1992)が印象的なのは、そこに私達の身体記憶が再生されるからである。また、《微笑む木馬》(2012)のように、映像に実態を組み合わせる方法も、特徴的である。そのほか、魚、鳥、海、森林など、自然のイメージが頻繁に現れる一方、袁の描く都市のイメージが無人であったり、あるいは廃墟であったりと、どこかいびつである。最先端のデジタル技術を駆使しながらも、作品には常に文明批判的な要素があることも、袁作品のひとつの特色であるといえる。
今年になって、袁廣鳴発表した《エネルギーの風景》や《占拠第561時間目》は、どちらも政治的な題材を取り上げている。ただ、これを路線のひぇん科と捉えるとしたなら、それは少し違う。袁の作品はこれまでも、有名なフェミニズムのスローガンが示すように、個人的であると同時に政治的な意味もはらんできたからだ。例えば、袁の作品の多くは、台湾の作家龍応台(ロン・インタイ)が「台湾海峡1949」で描いた、激しい抗日戦、それに続く国共内戦を生き抜き、戦後中国から台湾に渡った多くの国民の歴史とも呼応している。その一人、袁の山東省出身の父親は、彼が芸術制作の道に入るのに決定的な影響を与えた人物である。袁が七歳の頃から男手ひとつで袁を育て、2009年に他界した。実際に作品に登場するのは一度きり《消えゆく風景-経過I》(2007)であるが、鳥かごや西門町など、ほかにも実は、多くの父と関連するイメージが現れることは、作家本人も認めている。当展のクライマックス《消えゆく風景-経過II》(2011)では、亡き父の書斎が再現され、鳥かごの中の鳥がバタバタと羽ばたく。
袁廣鳴は、私達の記憶の細部を丁寧にスキャンする。映像は、空間や観客の体験と結びつき、より蝕知的な鑑賞体験を形成する。そしておそらく、最も私達の普段の記憶の形成に近い方法で、多くの情報が潜在意識の底にしまい込まれ、静かに再び浮上する時を待つ。それは、これまでの現代美術の演繹法的製作法とは、かなり違うありかたなのではないか。その答えはこれから、観客ひとりひとりが見いだすことになるだろう。
(岩切澪:アートライター/台湾現代美術研究)