ユアサエボシと戦後アヴァンギャルドの変身寓話集
開催概要
開催内容
現代美術家のユアサエボシ(1983-)と、戦後の日本でアヴァンギャルド芸術をこころざした池田龍雄(1928-2020)、高山良策(1917-1982)、中村宏(1932-2026)らの作品を「変身」をキーワードに展観します。
ユアサエボシは、古い雑誌や新聞、インターネットをもちいて集めたイメージを組み合わせ、絵画を制作しています。さらに、ユアサは絵画とともに「大正生まれの架空の三流画家 ユアサヱボシ」(1924-1987)の生涯の物語を創作して発表してきました。過去のイメージに着想を得て描くことで、架空の物故画家「ヱボシ」へと変身することから自身を「擬態派」と呼び、「ヱボシ」が生きたという戦後と現代を往還することを試みています。本展覧会でユアサは新作を発表します。それにあわせて「ヱボシ」の年譜に新たな出来事が書き加えられ、作品にまつわる新たな物語が明らかになります。
第二次世界大戦後、アヴァンギャルドの作家たちは、傷ついてゆがめられた人間やキメラ的な怪物、不気味な仮面などのイメージをとおして、戦争の記憶や戦後社会の矛盾、人間像の変容を描き出しました。これらの表現は、シュルレアリスムやルポルタージュ絵画運動に関心を寄せた作家たちの現実への深い洞察から生み出されています。彼・彼女らは見慣れた姿からの変身や変形を描くことによって、その背景にある出来事を寓話的に伝える独自の表現世界を切りひらきました。
本展覧会では、同館収蔵作家である池田、高山、中村と、彼らの表現に着目してきたユアサに加え、芥川(間所)紗織(1924-1966)、桂ゆき(1913-1991)、鶴岡政男(1907-1979)、古沢岩美(1912-2000)らを紹介します。戦後美術における「変身」のモチーフの広がりをたどることは、イメージを通じた過去との対話のあらたな機会となるでしょう。
[みどころ]
・ユアサエボシが当館の収蔵作家から着想を得た新作絵画を発表します。
・同館収蔵作家の代表作を通じて、戦後の前衛美術をご紹介します。
・同館収蔵後初公開の池田龍雄、高山良策らの作品や資料を多数展示します。
[出品作家]
ユアサエボシ、池田龍雄、高山良策、中村宏、芥川(間所)紗織、岡本太郎、桂ゆき、鶴岡政男、古沢岩美、山下菊二
~特別協力:小川哲(小説家)~
『地図と拳』で旧満州における架空の都市の盛衰とそこでの人々の生きざまを描き出した小説家の小川哲が、架空の詩人として「ユアサヱボシ」の作品に影響を与えた詩を発表します。
[展示構成]
~第一部 戦後アヴァンギャルド~
第一部では、同館の収蔵作家より、池田龍雄、高山良策、中村宏を紹介します。特攻隊としての訓練を続けるなかで終戦を迎えた池田は、戦後、上京してさまざまなジャンルの芸術家と交流しながら前衛運動にかかわりました。そのなかで、繊細で濃密なドローイングによるペン画を多数描き、政治や社会に翻弄されて変質する人間の生き方を問いました。高山は、福沢一郎絵画研究所で短期間学んだのち中国に出征し、戦後は都市や機械的な造形と民俗的でエロティックなモチーフを複雑に組み合わせた心象風景を描きました。中村は、幼少期に身近に接したセーラー服の女学生の姿と、戦時下に憧れと恐怖を抱いた飛行機や蒸気機関車とを融合させたイメージを、絵画やグラフィックの仕事において繰り返し描きました。
~第二部 ユアサエボシ~
第二部ではユアサエボシを特集します。絵画制作のプロセスのなかで事後的に過去や歴史とのつながりを見出し、架空の人物「ユアサヱボシ」とその生涯の物語と結びつけていく、ユアサの制作方法は、作品の多義性やあり得たかもしれない過去への想像力を喚起させるものです。現代を生きるユアサエボシは、「ヱボシ」の設定を用いることで、戦後美術を担った作家たちと疑似的に同時代を生き、制作することを試みます。
~変身広場~
戦争で傷ついた人間身体や、複数の生き物が混合させられた怪しい動物、あるいは、荒々しい造形の仮面などの異形の存在に変身するための道具など、「変身」にまつわるイメージは戦後美術において多様に展開されました。美術家たちは、戦中から戦後への価値観や人間像の変化や、新しい社会を求めるなかでの混乱や矛盾などを、そこに身を置きながら観察し、描き出していきました。ここでは、第一部で紹介した美術家や架空の画家「ユアサヱボシ」に、彼らと近しい場所で前衛的な表現を模索した美術家を加え、戦後美術における「変身」のモチーフのより大きな広がりを紹介します。