企画展「幸せになりたい!ー祈りの絵画ー」

開催概要

会期
2026年07月18日 〜 2026年09月06日
会場
福田美術館 (京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16)
ジャンル
アート
タグ
日本画

開催内容

企画展「幸せになりたい!ー祈りの絵画ー」は、"祈り"をキーワードとした、福田美術館初の「仏画」と「吉祥画」を中心とした企画展です。
 人はまだ文字を持たなかった古の時代から、絵に切実な祈りを込めてきました。絵を描き、絵を観ることで、自分自身や身近な人の幸福、あるいは国などの安寧を願ってきたのです。本展では、作品に込められた多様な祈りのかたちに光を当てます。第1章で紹介するのは、仏の姿や物語を描いた「仏画」の世界です。長い歴史を持つ伝統的な画題を、写実性も取り入れつつ新たな感性で表現した近代の画家たちの意欲作を一挙に公開します。第2章では、縁起の良い植物や動物を描いた「吉祥画」の世界を紹介します。いわゆるおめでたい絵画は、古くから私たちの日々の暮らしを彩ってきました。例えば、お正月の床の間に七福神や鶴亀、松竹梅を飾るといった習慣の中からは、生活の平安を祈る気持ちが窺えます。第3章では、祈りを込めて筆をとった日本画壇の巨星・東山魁夷(ひがしやまかいい)(1908-1999)の世界を紹介します。「描くことは、誠実に生きたいと願う心の祈り」と語り、真摯に風景と対峙し続けた魁夷の筆致は、観る者の心を浄化するような静謐さに満ちています。
 出展作品数は計59点で、菱田春草(ひしだしゅんそう)《白衣観音》、土田麦僊(つちだばくせん)《観音之図》など注目の初公開作品は17点におよびます。

[展示構成]
第1章仏画の世界-ほとけさんたち大集合!-

 飛鳥時代に伝来した仏画は、仏像と同様に、寺院や信仰の場での祈りの対象でした。近代には、明治時代初期の廃仏毀釈による大きな危機を経て、岡倉天心(1863-1913)らによる伝統美術の再評価やインドの仏跡調査が進み、仏画の制作が再び盛んになります。画家たちは西洋絵画の陰影や光の表現を取り入れながら、宗教画としての新たな可能性を追求しました。

 このような潮流のなか、精神性を仏画に託したのが京都出身の入江波光(いりえはこう)(1887-1948)です。昭和時代以降、波光は画壇から距離を置き、名利に走らず、己の内面を見つめながら創作に打ち込みます。墨のにじみが鈍い光を感じさせる独自の仏画を生み出し、晩年には法隆寺金堂壁画の模写にも取り組みました。
 本章では、釈迦の生涯を描いた仏伝図にはじまり、様々な仏の姿を描いた波光の秀作を紹介します。《聖観音》は2022年の「開館3周年記念 福美の名品展」以来、4年ぶりの公開となります。さらに、仏画とともに彼の代表作のひとつ《臨海の村》も特別に展示します。高さ約157cm、横幅約171cmの二曲一隻屏風に描かれた漁村の風景には胡粉(ごふん)に墨を混ぜた「具墨」と呼ばれる絵具や、空の部分に薄く刷かれた金泥(きんでい)が独特の風合いをもたらし、仏画にも通ずる繊細で柔らかな色彩が用いられています。

 第1章では、29点中11点もの初公開作品が登場します。仏画の世界に初めて触れる人も、近代の画家たちが表現した個性豊かな「ほとけさんたち」の姿に思わず魅了されてしまうのではないでしょうか。

第2章吉祥画の世界-この絵はどこが「おめでたい」?-

 吉祥とは、「めでたい兆し」のことです。中国では古来より、長寿や繁栄などの願いを込めて、縁起が良いとされる動植物が絵の題材として用いられてきました。この文化は日本にも伝わり、七福神や松竹梅、あるいは「一富士、二鷹、三茄子」といった吉祥のモチーフが好んで描かれるようになりました。床の間や座敷を彩った吉祥画には、いつの時代も変わらない、人々の幸せを願う気持ちが込められていると言えるでしょう。そのメッセージは、描かれたものの性質や、言葉遊び(掛け言葉)から連想することができます。本章では、なじみ深い一方で意外と知られていない、吉祥画に込められた意味を紹介します。当館初公開作品・根本幽峨の《大黒白鼠初夢図》は、大黒天が縁起の良い「一富士、二鷹、三茄子」の初夢を見ているという、極めて珍しい作品です。普段は背中に背負っている七宝が詰まった袋を枕にすやすやと眠る大黒天の表情は、どこかユーモラスでもあります。横山大観の《桃》には、古来中国では西遊記の孫悟空や楊貴妃も不老不死の果実として欲しがったとされ、日本では古事記や日本書紀の中で魔物を追い払うために使ったことから魔除け・厄除けの意味も持つ桃が、「たらしこみ」という技法で描かれています。たっぷりと水分を含んだ絵具に、濃度が高い絵具を差すことで桃が色づく様子を見事に表現しています。
 また、四季を彩る年中行事にも、子供の健やかな成長や平穏な生活への願いを込めたものが多くあります。本章の最後では、失われゆく近代の風俗を描き留めた美人画の巨匠・鏑木清方(かぶらききよかた)(1878-1972)の《十二ヶ月貼交屏風》を初公開します。

第3章東山魁夷の世界-描くことは祈ること-

 横浜に生まれた東山魁夷(1908-1999)は、大正15年(1926)に東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学し、結城素明(1875-1957)に指導を受けました。深く透き通る青を基調とした幻想的な風景画で一世を風靡した、戦後を代表する日本画家です。彼が風景に特別な眼差しを向けるようになったのは、戦後のことでした。凄惨な戦争体験や、肉親との相次ぐ別れにより絶望の淵にいた魁夷は、千葉県の鹿野山で夕陽に彩られた山々を見て、心からの安らぎと救いを感じます。

 この原体験を経て、魁夷は風景を単なる景色ではなく、自分自身の内面を映し出す鏡として捉えるようになりました。その後、心の奥底に潜む想いや心の平安への祈りを込め、制作に励みました。
魁夷の作品は平明な描写のうちに、「生」を慈しむ眼差しや精神的な深みを湛えています。本章では、文豪・川端康成(1899-1972)も賞賛した、魁夷自身の流麗な文章とともに、静謐な祈りに満ちた世界を紹介します。

企画展「幸せになりたい!ー祈りの絵画ー」