森万里子:燦燦

開催概要

会期
2026年10月31日 〜 2027年03月28日
会場
森美術館 (東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F)
参加クリエイター
森万里子
ジャンル
アート
タグ
映像、CG、インスタレーション、写真、立体

開催内容

アート、テクノロジー、そして超越的な体験
30年にわたるイノベーションの軌跡

森美術館ではニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム財団の協力のもと「森万里子:燦燦」を開催します。本展は、日本では東京都現代美術館での「森万里子 ピュアランド」(2002年)以来24年ぶりの大規模個展となり、30年以上にわたる活動のなかから約40点の作品を紹介するものです。パフォーマンス、CG技術を駆使した写真や映像、ドローイング、立体作品、そして大規模なインタラクティブ・インスタレーションなど、森の代名詞とも言える多様なメディアを通して、コンセプチュアルで芸術性の高い実践の数々を総覧しつつ、その革新的な創作活動を、大衆文化、テクノロジーの未来主義、意識をめぐる哲学といった新たな枠組みに位置づけ、改めて包括的に評価します。

今日、世界の現代アート界で多様な文化や文明への関心が高まるなか、先住民族や非西洋における儀礼的・伝統的な営みと不可分な創作活動が再び注目を集め、一方ではテクノロジーの加速度的な進化によって創造行為そのものの意味が問い直されています。また各地で戦争や紛争が起こり、グローバル経済が政治化するなかで、ヒューマニティとしての普遍性が切実に求められています。こうした時代に森万里子の実践を総覧することは、深い必然性があると考えます。

森万里子は1990年代半ば、自身のパフォーマンスに基づいた写真や映像作品である「サイボーグ」シリーズを発表し、コンピューター・グラフィックスを先駆的に使ったSF的なイメージで時代の寵児として注目を浴びました。彼女の関心はその後、日本のアニメ文化やジェンダー、ポストヒューマンといった現代社会への批評的な視点から、仏教の死生観や宇宙観に深く影響された、より壮大な哲学的関心へと拡がり、涅槃や浄土など仏教的世界を連想させるインタラクティブな大規模インスタレーションへ発展します。21世紀に入り、世界各地で分断が広がるなか、太古の時間から無限の宇宙まで、時空を超越したあらゆる生命の繋がりを提唱する概念「ワンネス(Oneness)」が彼女の実践における中核的な価値観となっていきます。そこでは世界中の学者や科学者との研究・協力に基づき、アニミズム、縄文やケルトなどの古代文化、仏教の唯識論から、素粒子論、宇宙物理学まで、広範な主題の探求がなされ、《Wave UFO》(1999-2002年)に代表される、最新テクノロジーを駆使した作品として具現化、体験化されてきました。2010年には自然界と人間の繋がりを再認識する作品の恒久設置を目指してFaou(ファウ)公益財団を設立し、宮古島、リオデジャネイロなどでそのミッションがすでに実現しています。
展覧会タイトルの「燦燦(さんさん)」は、森万里子の実践の中心にある「光」を象徴しています。光は、仏教では慈悲や智慧を示す光明、それを可視化した光背、神道では太陽神に代表される神々であり、森の具体的な作品のなかでは、超新星爆発によって生成されるニュートリノを可視的な光に転換した《トムナフーリ》(2006年)、冬至の太陽を捉える《プライマル・リズム:サンピラー》(2011年)、《リング:自然とひとつに》(2016年)などに通底しています。光、知覚、意識を通る没入的な体験として構成された「森万里子:燦燦」は、テクノロジーの加速と惑星規模の不安定さに象徴される現代において、自身を見つめなおす場となるでしょう。
本展は、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館・財団 シニア・キュレーター・アット・ラージ(グローバル・アーツ部門)のアレクサンドラ・モンローと、森美術館館長の片岡真実による共同キュレーションです。

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メッセージ

二十代前半、父の死を機に、命のはかなさに向き合うなかで、人の存在は本当に終わってしまうものなのだろうかという問いが、私の中に芽生えました。まず仏教に答えを求め、宇宙物理の書をひもとき、世界各地の古代都市や祈りの場(ギザ、ラリベラ、アンコールワット、テオティワカン、マチュピチュなど)を巡り、やがて国内外の新石器時代の遺跡(オークニー、ニューグレンジ、井戸尻、大湯)へと思索を広げていきました。そうした探求の中で、科学者やエンジニアと協働しながら技術の開発を重ね、宇宙との結びつきを体験できるような新しい表現を試みてきました。

創作活動を通して、魂という存在があるのなら、それは光であり、より大きな存在の一部ではないかと考えるようになりました。生と死は物質的な次元では分かれているように見えても、より深い層においては、もともと分断されていないのかもしれません。その感覚は、名づけることのできない内なる光として、作品の中に静かに息づいています。

ー森万里子


[展示構成]

展覧会はゆるやかな年代順およびテーマ別の5セクションで構成されます。

1. ポスト・ヒューマンから秘境の体験へ

1990年代半ば以降に大きな注目を浴びた《スター誕生》(1995年)や「サイボーグ」シリーズ(1994-1995年)などでは、アニメ、ビデオゲーム、コスプレ、ファッションが先駆的に採用され、作家自身が日常の都市環境の中に「ポスト・ヒューマン」の女性として登場しています。これらは、現在と未来、人間と非人間、サイボーグといった存在の領域を揺さぶるものでした。その後、森の関心は仏教の宇宙観へ拡がり、「エソテリック・コスモス」シリーズ(1996-98年)などの大規模な平面作品が国外を中心に発表されました。ここでは高度なデジタル・イメージング技術が用いられ、秘境の地を背景に、仏教の図像に基づいた神格化された姿で自身が演出されています。一種の聖域として構想されたビデオ・インスタレーション作品《リンク》(2000年)は、透明なアクリル製のボディ・カプセルの中に横たわる、静止した森自身の姿を映し出します。その背景には、人類の「過去・現在・未来」を象徴する、世界13か所の象徴的な風景が投影されています。森は、直線的な時間の概念を覆すような感覚を鑑賞者に提示し、生と死が絶え間なく循環する、仏教の「輪廻転生」の概念を具現化しています。さらに森のアプローチは、アートを「拡張された意識への入り口」と捉える新しい転換点を迎えます。これらの作品の華やかな外見の裏には、進化し続ける精神性への信念が暗喩されています。

2.テクノスピリチュアルな空間体験から、人類を繋ぐ「ワンネス」へ

この後、森のテクノロジーへの関心はさらに発展し、中期のプロジェクトでは、国際的な科学者や研究所との協力により開発された高度な計算技術を活用し、没入型環境が作品化されていきます。立体作品として最大規模の《Wave UFO》(1999-2002年)は、脳波バイオフィードバックを用いた革新的な作品の一つです。鑑賞者は勾玉型の有機的形体のポッドに入り、自身と他者の脳波がひとつになる投影映像へと変換される体験をします。(注1)これは21世紀に入り、世界各地で分断が広がるなか、森が2000年代初めから提唱する全人類の繋がり、「ワンネス」という概念を具現化したものでもあります。《Wave UFO》内のCG映像《コネクティッド・ワールド》では、深層意識との繋がりが視覚化されています。

(注1)「森万里子:燦燦」では、《Wave UFO》内部の体験鑑賞枠には限りがあります。


3. いにしえの未来

2004年以降、森は新石器時代のケルト文化や縄文文化の世界観にインスピレーションを得たプロジェクトを展開するようになります。ケルト文化において先祖の霊魂が転生する場を意味する《トムナフーリ》(2006年)は、東京大学宇宙線研究所のニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」からのリアルタイム・データによって発光する、トーテム状の立体作品です。太陽や地球の大気、遠方の超新星から発生するニュートリノに反応し、目に見えない宇宙の出来事を光の明滅へと変換することで、人智を超えた自然現象と鑑賞者を結びつけます。また、沖縄県の久高島、秋田県にある縄文時代のストーンサークル、大湯環状列石の写真作品や、縄文中期から後期の敷石住居などのリサーチから生まれた《フラット・ストーン》(2006年)も展示されます。昨年ニューヨークで発表されたインスタレーション《お社(やしろ)》も展示され、内部に置かれた立体は日本神話に登場するオノコロ島の上立神岩や、熊本県の押戸石などをモチーフにしています。

4. 自然界とつながる

展示の締めくくりとして、森が2010年に設立したFaou公益財団の活動を紹介します。 「Faou」は「創造する力」を意味する造語で、同財団の活動は世界6大陸において、それぞれの地域コミュニティの協力を得ながら、宇宙や天空の動きとも連動したパブリックアート作品を設置しています。 そして、その目的は自然環境という地球の宝の中で、自然と人間の関係への意識を高めようとするものです。 2011年には宮古島に《プライマル・リズム:サンピラー》が、2016年にはリオデジャネイロに《リング:自然とひとつに》が恒久設置されました。 また、エチオピアでの設置が計画されている《ピース・クリスタル》が、2024年にベネチアで発表されています。 本展では、森が宮古島に建てたアトリエ「ユプティラ」(宮古言葉で豊かさを表すユプと太陽を表すティダを融合した名前)から見える海の風景、《プライマル・リズム:サンピラー》、《リング:自然とひとつに》など、美術館空間に収まらない活動をまとめた新作映像を大型LEDディスプレーで展示します。

森万里子:燦燦