生誕100年記念展 Part2 Re:辻邦生――作家をめぐる人と世界(モノ)

開催概要

会期
2026年06月23日 〜 2026年08月01日
会場
霞会館記念学習院ミュージアム (東京都豊島区目白1-5-1 学習院大学目白キャンパス内)
参加クリエイター
辻邦生
ジャンル
その他
タグ
書籍

開催内容

1960年代から90年代にかけて活躍した作家・辻邦生(1925–1999)は、端正な文体と壮大な構想による歴史小説で知られ、今なお多くの読者に読み継がれています。
その文学は、小説という枠にとどまらず、美術、音楽、演劇など多彩な芸術文化と響き合いながら育まれました。文学は、作家ひとりの内面からのみ生まれるものではありません。人との出会い、場所の記憶、芸術との交感――そうした無数の経験の積み重ねによって、その世界はかたちづくられていきます。
学習院ミュージアムとしてリニューアル後、初めて開催する文学展「Re:辻邦生」。Part1では作家と作品、創作の歩みに焦点を当てました。Part2ではさらに視点を広げ、人とモノの記憶を通して、辻邦生という存在をあらためて見つめ直します。
哲学者・森有正、日本文学研究者ドナルド・キーン、作曲家・武満徹、俳優・仲代達矢、作家の宇野千代、大江健三郎、加賀乙彦、北杜夫ら同時代の知識人たちとの交流は、辻の思索を豊かにし、文学の枠を超えた創作の糧となりました。
また、建築家・磯崎新、彫刻家・宮脇愛子夫妻との親交も、辻を語るうえで欠かせません。磯崎の設計による軽井沢山荘には、森の木々と谷を抜ける風を感じる書斎があり、辻にとって創作と思索の重要な場となっていました。
さらに、銅版画家・山本容子、画家・小泉淳作、柴田賢治郎、福本章、和田亞紀らとの交友、妻で美術史家の佐保子と交わしたイラスト入りの手紙“MANGUA”、入院中の辻夫妻に画家・藪野健と編集者・井上明久が送り続けた絵手紙などからは、美しいものを愛し、人生を愉しんだ辻の人柄が浮かび上がります。
会場では、自筆書簡、創作メモ、100冊におよぶ日記『JOURNAL』、旧蔵書、愛用品、美術作品などを通して、辻邦生の文学世界を多角的に紹介します。
そこには、『安土往還記』『嵯峨野明月記』『樹の声 海の声』へとつながる思考の断片や、日常のなかで育まれた創造の軌跡が刻まれています。
資料の向こうに立ち上がるのは、〈作家〉という肩書だけではない、誰かを愛し、語り合い、美しいものに心を動かされ続けた、ひとりの人間の姿です。

[見どころ]
1. 中央に浮かぶ100冊の日記――辻邦生の〈脳内〉に入る展示空間
本展の核となるのは、辻邦生が生涯にわたって書き続けた100冊の日記『JOURNAL』です。展示空間の中央に浮かぶように並ぶ日記群は、作家の思考や記憶の集積であり、いわば〈脳内〉そのものともいえる存在です。
びっしりと記された言葉を追うことで、辻の思索や創作、人との交流がどのように結びつき、その文学世界を形づくっていったのかをたどります。

2. 4つのゾーンでたどる、辻邦生をめぐる人と世界
会場は4つのテーマゾーン――「繋がる 学習院の仲間たち『樹の声 海の声』の誕生」「聴く、語る 音楽がひらく物語」「見る、暮らす 絵と言葉を交わす」「生きて愛するために 辻邦生への書簡」――と、恩師である哲学者・森有正を紹介するコーナーによって構成されています。
日本文学研究者ドナルド・キーン、建築家・磯崎新、銅版画家・山本容子らとの交流資料をはじめ、自筆書簡、美術作品、愛用品などを通して、辻邦生を取り巻いていた豊かな文化的ネットワークを立体的に紹介します。来場者は中央の日記群の周囲を巡りながら、辻の文学世界が人や芸術との関係のなかで育まれていく過程を、体感的にたどることができます。

3. いま、あらためて開かれる辻文学――『樹の声 海の声』ほか
本展では、『樹の声 海の声』や、作曲家・武満徹との舞台化作品『祝典喜劇 ポセイドン仮面祭』など、これまで大規模な展示で紹介される機会の少なかった作品群にも焦点を当てます。
学習院での出会いを背景に生まれた小説『樹の声 海の声』は、明治・大正・昭和を生きた一人の女性の歩みを通して、人間らしく生きるとは何かを問い続けた長篇小説です。人と人とが愛し合うことの大切さと、戦争がもたらす悲劇を静かに、力強く描き出した作品です。
また、演劇へと開かれていく戯曲作品からは、「語る」「響き合う」といった、『嵯峨野明月記』『西行花伝』へとつながる辻文学のもう一つの側面が見えてきます。
さらに、辻が幼少期から耳にしていた父・靖剛の薩摩琵琶をはじめとする関連資料を通して、壮大な歴史小説の作家というイメージにとどまらない、多面的な辻邦生像を紹介します。

4. 辻邦生の絵画コレクション――生活のなかにあった芸術
辻邦生の生活空間には、幾つかの絵画が飾られていました。それらは単なる美術コレクションではなく、交流のなかで画家たちから贈られた、友情と創作の記憶でもありました。
本展では、作品の共同制作者でもあった銅版画家・山本容子をはじめ、画家の藪野健、小泉淳作、柴田賢治郎、福本章、和田亞紀らの作品を、辻自身の言葉とともに紹介します。
作家が日々目にしていた絵画の風景からは、美術と文学が響き合う、豊かな創造の環境が感じられます。

5. 書簡が語る、交流の軌跡――友情と対話が育んだ文学世界
辻邦生は、生涯にわたって多くの人々と手紙を交わしました。本展では、北杜夫、加賀乙彦、名編集者・坂本一亀、俳優・仲代達矢らとの書簡を紹介します。
青春期を共有した友人たちとの対話や記憶の積み重ねは、『安土往還記』をはじめとする作品世界に深い影響を与えました。また、文学や演劇、芸術をめぐる交流は、辻の思索をさらに広い領域へと開いていきました。
書簡に残された言葉からは、創作の背景だけでなく、人と人との長い時間のなかで育まれた友情と信頼のかたちが伝わってきます。

生誕100年記念展 Part2 Re:辻邦生――作家をめぐる人と世界(モノ)