レーティング・コメント

展覧会 佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在 の評価5のレビュー

2022年01月24日 15時19分06秒forimalitsuto@yahoo.co.jpさん

 佐藤雅晴の作品には初期から物悲しい通奏低音がただよっている。佐藤は2019年3月に45歳で早世しているが、この寂寥感はどうしてもそのことと結びついてしまう。  水戸芸術館で開催された本展は彼の回顧展になっており、代表作のほとんどが一挙に見られた。その中で繊細なレトリックにも気がついた。例えば映像作品《バインド・ドライブ》。降りしきる雨の中、男女ふたりが止まった車の中にいる。男が運転席、女が助手席。男が悪魔で女が天使であるのはすぐ気づく。天使が妊婦なのもすぐわかる。ふたりの表情が所在なげな雰囲気を漂わせていることから、これから心中するのではと思わせる。ただ、ガソリンは残り少ない。演歌のデュエット曲が流れている車のラジカセは「リピート」を表示している。  佐藤の映像作品はほとんどが数分以下の短い動画のループだが、何度もリピートして見てしまう。実写映像をその一部あるいは全部を丁寧にトレースするロトスコープという技法で作られている。また、デジタル写真を丁寧にレタッチしたフォトデジタルペインティングの技法による作品もある。いずれも、作家 佐藤雅晴がコツコツと膨大な時間をかけ、丁寧に制作したであろうことが容易に想像できる。  繰り返される日常生活のように、一点一点ゆっくりと時間をかけ制作した彼は、人生をあまりに急ぎ過ぎたと思えてならない。

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