開催時間 |
11時00分 - 18時30分
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休み |
日・月・祝
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入場料 |
無料 |
作品の販売有無 |
販売有
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この情報のお問合せ |
Fuma Contemporary Tokyo Bunkyo Art
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情報提供者/投稿者 |
住所 |
〒104-0042 東京都
中央区入船1-3-9 長崎ビル9F |
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最寄り駅 | 八丁堀 |
電話番号 | 03-6280-3717 |
枝史織の絵画に現れる素っ裸の女たちを見るたびに、私はいつもイヴのことを想う。胸の膨らみや茂った陰毛を見れば、彼女たちは成熟した女性である。けして少女ではない。しかし、天地創造の物語に出てくるイヴとはどこかが違う。アダムを惑わせることもないし、第一ここにはアダムがいない。登場するのはイヴだけだ。
枝の絵画で私が想うイヴとは、ミトコンドリア・イヴに近いものだ。ミトコンドリアDNAは必ず母から子へと受け継がれ、父から受け継がれることはない。だからミトコンドリアDNAの塩基配列を解析すれば、母、母の母、母の母の母と、私たちの母方の系統を遡っていくことができる。そしてついには私たちの共通の母たる女性、ミトコンドリア・イヴに辿り着くというわけだ。現生人類共通の初源として存在する、理論上のひとりの女性、概念としてのイヴである。
そう思うと、枝史織の絵画やインスタレーションもある種の創造神話だと言えなくもない。あまりにもそっけなく、しかし圧倒的な広がりを見せる天地のなかに素っ裸で放り出され、彼女のイヴたちはなにかを始める。海上に小さな領域をつくり、そこに「オープンカフェ」や「焼却炉」や「キッチン」や、さらには「噴水」、「喫煙所」、「花屋」、「露天風呂」、「カラフルな服のある衣料店」などをつくりだす。崩れ落ちる大津波にダイブしたかと思えば、異世界へと通じるかもしれないトンネルの入り口の深い闇を見つめる。湧き出す熱水に祈りを捧げ、予期せぬなにかと遭遇する十字路に立つ。果てしなく天空に延びる梯子を登り続ける。
私も著書『別府』で、偶然と必然が絡み合う「たまたま」という概念を重視して、そんなたまたまが起こりやすい十字路という場所に着目した。十字路は「術」が執り行われる場所でもある。だから、枝史織がたぐいまれなる洞察力で選び抜く象徴的、暗示的な場所については、自分の身体感覚としてよく理解できる。そんな場所に彼女はイヴを送り込み、そこに生まれる状況を描き続けるのだ。ある意味で、その営みは新たな神話世界の記述だと言える。予兆に満ちた光景の記述。それはある時代までの西欧の画家たちが真剣に取り組んでいた姿勢でもあり、描かれる世界はまったくの別物だが、態度として、枝もその系譜に連なるひとりなのだろう。
今回の個展では23の光景を描きだすと枝は言う。初源のイヴたちは、今度はどんな冒険をはじめるのか?
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