分解と統合

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    会 期
    20141129日 -  20141227
    開催時間
    11時00分 - 19時00分
    休み
    日・月・祝
    入場料
    無料
    この情報のお問合せ
    児玉画廊
    情報提供者/投稿者
    開催場所
    児玉画廊|京都
    住所
    〒601-8025 京都府
    京都市南区東九条柳下町67-2
    最寄り駅
    十条
    電話番号
    075-693-4075

    詳細

    参加クリエイター

    展覧会内容

     和田の制作へのアプローチは、頭の中にイメージしたビジョンを、自分が系統立てたロジックに沿っていかに作品として表出していくか、その演習と実践だと言えます。作品が「絵画」なのか「立体」なのかという区別を、形態(キャンバスであるとか構造的特徴がある等)によってではなく、思い描いた「イメージ」の様態が「絵画的」であるか「立体的」であるかを分析することによって定めています。さらに、和田は作品によって「イメージ」を形にすると謳っていながら、実際そこに現わされているのは「見えている物」ではなく「物をいかに見るか」という方法論であると言い換えるべきものです。見るという行為は、余りに当たり前過ぎて通常は意識されていませんが、であるからこそ和田はそこに一つの問題提起をしているのです。

     和田の作品をユニークなものとしている上記の特徴について、順を追って紐解いていきます。まずは作品制作における基本的な立ち位置として、和田が「イメージ」をどのようなものとして認識しているのかを明確にしておきます。一般論から言えば、人が物を視覚で捉える時、色、形、質感、状態、位置など無限の情報を処理することで認識しています。想像する際には経験的に得たそれらの情報を再構築して行っています。カメラで言えば、目は物を捉えるためのレンズであって、頭で「イメージ」するという知覚(認識)のフィールドがフィルムにあたります。絵を描くということは、物を見て(あるいは見ずとも)、知覚した「イメージ」を何かに描き出す(印画紙に現像するように)ということです。そして、その描き出された絵を見るということは、描き手がどのような「イメージ」を抱いているのかを絵を通して鑑賞者が二次的に知るということです。一見不可解な和田の作品も、和田がどのように見て、どのように感じ、どのように知覚したか、和田固有の「イメージ」像を鑑賞者に共有させるという目的においては一般的な絵画と同様です。しかし、一般的な絵画の場合には、描き手と鑑賞者の間には、ある種の約束事が存在する事に注意せねばなりません。それは「絵画のイリュージョン」と言われているような、遠近法や明暗法など、"A" という方法に即した描き方がしてあれば、それは絵画上においては"a" という状態を示すというルールを経験的に了解しておく事です。この了解の上では、本来長方形のテーブルの天板が、台形もしくは菱形に描かれていれば、それは奥行きや視線の角度を示しているのだ、と即座に理解される訳です。少なくとも遠近法やカメラ、ビデオの視覚情報に慣れた現代人の目にはそうです。この点において和田の考えは非常にユニークであると言えます。 それは知覚(認識)のフィールドは実は3Dの空間ではなく、物体の立体感はあたかも舞台の書き割りのように単純化された二次元の層の重なりなのではないか、というものです。先のテーブルの天板を「奥行きのある長方形」と補正せずに「台形という図形」として認識する。台形をもって長方形を示唆するから「イリュージョン ( = 錯視 ) 」なのであり、では、それを封じた時「イメージ」はどのような構造を得るのか。このように和田は自分が思い浮かべる「イメージ」を解析し、作品としてどう構造的に帰結させるかを模索しています。よって鑑賞者は和田の作品を前に、自分が正しいと思っている遠近法による空間認識との食い違いを感じざるを得ません。「イメージ」についてのこの和田独自の論理を理解すると、次に和田の作品がなぜ「絵画」や「立体」というキーワードに拘るのかが見えてきます。

     「絵画」とは、一般的にはキャンバスや紙に描いたもの、より広義ではコラージュや版画等を含む場合もあるでしょう。共通点はただ、平面上に描き出されたものであることです。「立体」にしても、構造的な形態であることや金属や石などの物質を素材として空間的な広がりを有していること、と理解されるのが常です。しかし、その理解だけで和田の作品に臨むと躓いてしまいます。なぜなら、和田の作品においては、本質的には「絵」であるのに「立体」の状態にあることや、本質的に「立体」であるのに「絵」の状態にあること、という矛盾が堂々と提示されているからです。ここで踵を返さず理解を深めるためにはまず、「イメージ」に忠実であるという和田の基本姿勢を思い出しておく必要があります。よく和田がモチーフとして選ぶ「馬」を描いた作品では、右前足のパーツ、左前足のパーツ、胴体のパーツ、尻尾のパーツ、と言った具合に部位ごとに層を分けて描き重ねています。それは和田が、右前足より手前に胴体があり、更にその手前に左前足がある、というように馬の立体感を、各部位の前後関係に則して極めてシンプルなレイヤー構造として認識したからに他なりません。「馬」という端的なタイトルが付けられていますが、これはいわゆる「馬の絵」ではなく「馬の立体」です。正確には「和田真由子の知覚における馬の立体構造の(平面上への )提示」と注釈を付けると想像し易いかもしれません。和田にとっては馬の立体感がパーツ毎に重なった書き割り状に見えていて、それをそのまま表した作品「馬」は、和田が知覚できる限りの馬の「立体」構造を示しているけれども、形態としてはタブローという形をとっているので、一見「絵画」の状態にあるにすぎない、ということです。端的に言えば、彫刻を造るプロセスを経て制作されたものは、見かけ上は平面であってもそれは立体作品である、という解釈です。では、なぜ単に立体造形物として「馬」を制作しなかったのか。それは和田が思い浮かべている「イメージ」が平坦な層の重なりである以上、あくまでそれに忠実に、平面的に制作しなければならないというのが和田の大前提だからです。もう一つ例を挙げましょう。これまで「鳥」という作品がいくつか制作されていますが、それらは見た目は材木やビニールシートのアッサンブラージュで、まるでコートを無造作にフックに引っ掛けたようなラフな吊り展示がなされます。明らかな立体造形物であるのに、その形質の捉え方は彫刻というよりもむしろ速筆のドローイングのようです。これは先ほどの「馬」とは逆に平坦な層の重なりとしてパーツごとに捉えた「鳥」の構造を、実際の「鳥」らしく組み立てる努力をした結果、何とか立体的な構造を得てはいるものの、そもそも平坦な「イメージ」の成果物であるため、かろうじて「鳥」らしき形の何かを作り出しているに過ぎません。よって、和田の中ではこれは寧ろ「絵画」の範疇に留まるのです。こうした作品の「絵画」や「立体」という形態のカテゴリーと和田が見ている「イメージ」の様態の逆転現象が、鑑賞者を惑わし、理解を阻むのです。しかし、その原理を知れば、和田の作品が描出するところの「絵」であるのに「立体」であるとか、「立体」であるのに「絵」という視覚現象を追体験することができるでしょう。

     そして、最後に、作品の主軸が「方法論の提示」であるという点についても、以上の理解を踏まえれば容易に解釈することができます。和田の視覚は思い浮かべた「イメージ」が全てなので、曖昧な状態のイメージはそのまま曖昧に示されます。馬の細やかな毛並みや物の後背にあるもの等、明瞭に想像できない事や物理的に見えないものについては、写実性を優先してごまかしたり補完して描くことはなく、分からない状態、見えない状態としてそのまま提示されます。これは和田の中で明確に存在するルールであって、これに反する事は「イメージ」を忠実に再現するというコンセプトに反することになります。よって、和田は絵画イリュージョンやその他の一般的な絵画手法が目指す写実性に頼らぬ独自の方法論を作品によって示す必要があるのです。

     展覧会名「分解と統合」は、最も近作の半透明ビニールシートに描かれたシリーズに付けられている作品タイトルでもあります。それら作品群が意図することは、「イメージ」を分解し、統合するその方法論を端的に鑑賞者に提示するという試みです。「イメージ」の分解とは、書き割り状の層に分かれた立体視を鑑賞者に具体的に見せることであり、モチーフとなる景色や物体の空間的な重なりを物理的に「層」に置き換えた多重レイヤーのタブローとして提示しています。「イメージ」の統合とは、実際、幾重かの半透明ビニールシートに絵が前後して描かれているために、物理的に分解されたイメージの「層」が透かし重ねられ、一つの統合した「イメージ」として自ずと鑑賞者が認識できる仕組みを言います。つまりそれら作品群は「イメージ」についての和田の解析を鑑賞者が疑似体験する為の装置なのです。今回の個展においては、児玉画廊の上下2フロアにわたる展示空間に周到に構築された展示構成を辿る内に、我々の目が、視覚が、そして「イメージ」が「分解と統合」を繰り返していくことによって、絵画や彫刻の既定路線から解放された新しい視覚体験を得ることになるでしょう。

    2014年11月
    児玉画廊 小林 健

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