ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢
会期: 2014-01-25 - 2014-04-06
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
近代アート
開催内容
英国を代表する美術館の一つ、テート美術館が所蔵するラファエル前派の絵画71点をご紹介します。ラファエル前派は1848年、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントを中心とする若者たちによって結成されたグループです。
当時のアカデミズムに反旗を翻し、ラファエロ以前の初期ルネサンス芸術に霊感源を求めようとした彼らの前衛運動は、英国のアート界にスキャンダラスを巻き起こしました。
2012年9月のロンドン・テート美術館を皮切りに、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、モスクワ・プーシキン美術館を巡る注目の展覧会がやってきます。ラファエル前派の大規模展は英国においてすら20年以上ぶりで、大きな話題を集めました。国内では東京のみの開催です。
本展は、世界的なコレクションを誇るテート美術館所蔵のラファエル前派の名画71点がまとめてみられる大変貴重な機会です。英国発の前衛美術運動の全貌を7つのテーマに分けて分かりやすく紹介します。ロセッティ作の名画19点を一挙公開、まさに「美女の競演」です。ラファエル前派の作品の中で最もよく知られる、ジャン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》も来日します。
第1章 歴史
聖書、神話、文学、歴史的事件などを描いた「歴史画」はヨーロッパにおいてアカデミーが17世紀に創設されて以来、最も重
要なジャンルだった。ラファエル全派はこの分野で、近代的な新しい形式を作り上げた。彼らはシェイクスピアやアーサー王
伝説などに題材を見出し、服装や背景は史実に忠実でいかにも本物らしい道具立てを再構成し、登場人物は仲間うちのモ
デルを丁寧に描き、真実味のある作品に仕上げた。ゆるぎない写実性と個性豊かな人物像を特徴とするラファエル前派の歴
史画は、理想化された古典的な裸婦像や模範的な美徳、軍功、王家の功績などを型通りに描いたアカデミーの慣行からか
け離れ、批判を受けるとともにヴィクトリア朝の新興富裕層の心を捉えた。
第2章 宗教
19世紀前半の英国ではプロテスタント系の英国国教会の中から、教会の歴史的権威や儀式を重んじるオックスフォード運動
が起こり、キリスト教信仰の実際のあり方に関心が高まった。このような背景のもとラファエル前派は、盛期ルネサンス以降
あまり顧みられなくなっていた中世キリスト教絵画の図像や形式を復活させる一方、人物や場面を写実的に描くことにより、
近代的で独創的な宗教絵画を作り上げた。そこでは宗教的な一場面が劇的に一挙に示されるのではなく、宗教的な意味と
登場人物の心理を少しずつ読み解くよう促される。ラファエル前派の画家たちは聖書を人間ドラマの宝庫とみなし、神の教え
と言うより文学的、詩的な意味を求める対象とした。
第3章 風景
自然を描くとき、ラファエル前派は特に著しい独創性を発揮した。「自然に忠実たれ」と説く評論家ジョン・ラスキンの著述にも
触発され、画家たちは戸外での時間をかけた緻密な観察に基づいて、自然界を油彩で描く斬新で正確な手法を確立した。
ラファエル前派の自然の見方はおおむねパノラマ的な景観を避け、近くと遠くを一つのまとまりとして捉え、すべての要素を
等しく正確に描出する。1839年に写真技法が完成したのちも、画家たちは風景を正確に描こうとする意欲を失わず、かえっ
てさらに細やかな描写を試みた。ラファエル前派の風景画は明らかに、ダーウィンの「種の起源」(1859年)発表前後の英国
の自然科学、地質学、植物学、気象学などの発展に影響を受けている。
第4章 近代生活
ラファエル前派が結成された1848年、英国では社会革命を求める労働者階級による「チャーチスト運動」が最後の盛り上が
りを見せていた。ラファエル前派初期の作品もこうした時代の反抗的・反体制的なエネルギーを共有している。ヴィクトリア朝
時代の英国は産業革命による経済発展が成熟するとともに、貧富の差が拡大し社会の亀裂や矛盾が明らかとなった。ラファ
エル前派の画家たちは風俗画に生真面目な倫理性をもち込み、売春や貧困など近代生活につきものの挑発的な主題をとり
あげて作品に鋭い批評性を与えようと試みた。世間の習俗を描く彼らの作品は堕落した人間の生き方と救済の必要性を説
き、同時に義務と自助努力の重要性を訴えて、しばしば近代の寓話の形態をとった。
第5章 詩的な絵画
ロセッティは1850年代半ばには油彩作品を展覧会に出品するのを止め、初期ラファエル全派の自然主義からも離れ、ダンテ
の詩やアーサー王伝説を題材に濃厚な彩色を施した水彩作品を制作するようになる。それらによく登場する女性のモデルと
なったエリザベス・シダルはロセッティの恋人でありミューズで、後に妻となったが、自ら水彩画を描きロセッティの影響を受
けつつも画家としての個性を発揮した。また同じ頃ロセッティの作品に感激した年少の芸術家バーン=ジョーンズとウイリア
ム・モリスが彼のもとに集まり、同じような中世趣味の濃い絵画を好み、さらに50年代も終わろうとする頃には家具、ステンド
グラス、壁紙など装飾芸術までその範囲を広げていった。
第6章 美
1860年代に入るとラファエル前派は新たな表現形式を模索しはじめる。それまでのような文学的な主題や自然、社会、宗教
をめぐる精密な解釈から離れ、絵画制作の純粋に美的な可能性を探ろうとしたおである。まずミレイが50年代後半から、明
確な主題を特定できない作品を描き始めた。さらにロセッティは1859年に油彩画に復帰し、装飾性豊かな女性の上半身を濃
厚な色彩で画面前景いっぱいに描くようになる。そこでは16世紀のヴェネツイア派の絵画が意識されているが、物語性を排
し画面の色彩や形式の美を追求するまったく新しい絵画となっている。ラファエル前派は「芸術のための芸術」を目指す唯美
主義運動へと接近していった。
第7章 象徴主義
唯美主義的な絵画をロセッティとともに推進めたバーン=ジョーンズは、1870年代以降画家としての円熟期を迎え、ヨーロッ
パ大陸に興る象徴主義に大きな影響を与えた。現代生活に主題を求めず、自然主義的な描写も退けた点は、初期の水彩画
から円熟期の油彩画までほぼ一貫していた。出典も共通なら絵画の塗り方も同様に半透明で、登場人物は感情を表さず、
幾重にも塗り重ねられた絵の具の層の中で謎めいている。鑑賞者は装飾的な構図を通して神秘的な想像の世界に招かれ
る。近代社会に背を向けてひたすら理想化されたヴィジョンを描いたバーン=ジョーンズは、ヴィクトリア朝期の英国の物質至
上主義に対抗する別の世界を提示しようとした。