黒坂 祐「ポリフォニックな眺め」

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会 期
20240608日 -  20240623
開催時間
11時00分 - 19時00分
休み
月曜日,火曜日
クリエイター在廊
入場料
無料
展覧会の撮影
作品の販売有無
販売有
この情報のお問合せ
TEL 03-5726-9985
info@katsuya-susuki-gallery.com
イベントURL
情報提供者/投稿者
開催場所
KATSUYA SUSUKI GALLERY
住所
〒152-0022 東京都
東京都目黒区柿の木坂1-32-17
最寄り駅
都立大学
電話番号
0357269985

詳細

参加クリエイター

展覧会内容

この度KATSUYA SUSUKI GALLERYでは2024年6月8日(土)より、黒坂 祐による個展「ポリフォニックな眺め」を開催いたします。
2017年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、2019年に同大学大学院美術研究科絵画専攻を修了した黒坂は、自身のD型色覚(2型2色覚)という、いわゆる色弱であるという境遇から、「見る」という事を様々な視点から考察し、近年では「眺め」と「見分け」という観点から色を捉えるという事を模索した作品を発表してきました。

弊廊では2度目となる今回の個展では、パウル・クレーの「ポリフォニー絵画」をヒントにした新作を発表いたします。
これまでの「眺め」と「見分け」に、音楽の形式であるポリフォニーを取り入れることで、これまで以上に自由を感じながら「色」に対して向き合う事ができたと語る黒坂。

さらに今回の展示では、自身の色覚と違った画家と共作する事で、個人で制作した時とは違う、新たなせめぎ合いをキャンバス上に生じさせ、予測不可能な響き合いによって生み出された作品など、黒坂祐の新たな取り組みに挑んだ作品を発表いたします

「色」に対して新たな方法によって向き合った黒坂祐の新作の数々を、この機会に是非ご高覧ください。

[Statement]

私は「色弱」なので、絵を描くにあたってどう色を捉え、扱うのかを考えています。
ここ1年半ぐらいは「自由」に色を扱うことについて、試行錯誤を繰り返しました。
その過程で、色を「扱う」のではなくて色に「扱われる」ような描き方をすれば良いのではないかと思い至りました。
前者は画家によって色が動くのに対し、後者は色によって画家が動くといった態度です。
このような態度を実践するために、水彩絵の具を画材に採用しました。
今まで私は油絵の具での仕事が中心でしたが、油絵の具はその渇きの遅さ故に色と色が混ざりすぎてしまい、それぞれの色の声を聞くことが難しくなります。
水彩絵の具は色を置いた瞬間からその定着が早いので、そういった問題を解決してくれました。

この描き方で制作を進めていく内に「ポリフォニー」という言葉がふいに浮かびました。
私がこの言葉と出会ったのはパウル・クレーの「ポリフォニー絵画」でした。
大の音楽好きで自らもプレイヤーだったクレーは音楽のいち形式であるポリフォニーを自身の制作に取り入れました。
ポリフォニーとは複数の自律した主題が対等な立場で響き合う音楽の形式を指します。
私が理想とする色の感じ方を「眺め」と呼んでいるのですが、それにとても近い考え方だと思いました。
ポリフォニー絵画の素晴らしさは音を色に変換している点にあります。
絵画を構成する色は音、空間はその音が響く教会やホールに変換されています。
私は目で見たものの色には先入観が入り込んでしまったり、人と「違っている」といった意識が拭いきれません。
それに抗おうとしても、逆に囚われてしまうというジレンマを抱えていました。
しかし、音に感じる色/色に感じる音に対しては先入観もコンプレックスもなく「自由」な気分で捉えることができました。
そこに気付いてからは色に対しての捻れた思いが、すっと解かれていく感覚でした。

先ほど文章内で触れた「眺め」とは「見分け」と対をなす概念として名付けたものですが、考えを深めていく内に実はこのふたつは反対にある概念ではなく、常にせめぎ合っているような関係であることに気づきました。

例えば森を遠くから見ると緑色のまとまりだという印象を受けるが、(見分け)
いざ森の中に入ってみると風に揺れる木々がそれぞれ複雑な色を持っていることに気づく。(眺め)
ひとつの葉っぱをとりあげて見てみるとやはり緑色の印象を受け、(見分け)
顔を近づけてよく観察してみると緑色だと思った葉っぱの中にも様々な色が発見できて単純に緑とは言えなくなる。(眺め)

実際の視覚においてはこのように単純な図式ではありませんが、常に入れ替わりが起こり続けます。
この色の感じ方を時間的でないひとつの平面上に表す手段としても、ポリフォニー絵画が有効に思われます。
クレーは「ポリフォニー絵画は、音楽より優れている。そこでは、時間的なものはむしろ空間的であるからなのだ。同時性という概念が、ここでははるかに豊かにあられている。」(日記1081番/1917年・南原実訳)と書き記しています。
私の手法では色をちぐはぐに重ね合わせることで色の「眺め」と「見分け」の状態を画面の中で入れ替え続けます。
わかりやすく言いかえるならば、混色による「何色とも言い難いような状態」と原色による「何色だと言えてしまう状態」のせめぎ合いが起こるように描いていく方法です。
この手法によってポリフォニックな画面を作り出しています。
音の粒のような拡散や集合がしやすい性質を持つものをモチーフとするからこそ、成立する手法です。

今回展示する作品の約半数は私と異なった色覚を持つ画家との共作です。
共作といっても、私の制作をふたりで行ったらどうなるだろうというような取り組みです。
ひとりの制作では色と色とがせめぎ合っていくのですが、ふたりの制作ではそれぞれの画家の色覚自体が自律した主題となり、せめぎ合います。
自分は気に入る色の響きを作ったつもりだけど、相手は気に入らなかったりして、別の色を重ねてしまう。
逆に自分では思いつかないような美しさが現れたら、それは残しておく。
そして双方が「納得のいく」画面になれば終わりにする。
「完璧」な画面にはならないけれど、ポリフォニーとはもしかしたらそういった状態のことを指すのかもしれない。
それは共作だからというわけでもなく、ひとりの制作においても同じようなことが言えると思います。
それが最初に書いたような、画家が主体を持たないような「自由」な絵の描き方にも繋がっていくのだと考えながら制作をしています。

黒坂祐

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