開催時間 |
11時00分 - 18時00分
※金曜日は19時00分まで開館 ※入館は閉館の30分前まで |
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休み |
月曜日
※9/18・10/9(月・祝)は開館、翌9/19・10/10 (火)休館 |
入場料 |
有料 一般1,000円(800円)、高大生600円(500円)、中学生以下無料 ※20名様以上の団体は( )内の割引料金 ※障がい者手帳ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料 |
作品の販売有無 |
展示のみ
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この情報のお問合せ |
泉屋博古館東京
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情報提供者/投稿者 |
住所 |
〒106-0032 東京都
港区六本木1-5-1 |
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最寄り駅 | 六本木一丁目 |
電話番号 | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
安らぎと自由の追求。
忙しない俗世を離れ、清雅な地での隠遁生活を送りたいと願うのは、超高速の情報が飛び交う現代社会に生きる私達ばかりではありません。むかしの人たちも政治や社会のしがらみから逃れ、清廉な生活にあこがれたがために、自ら娯しみ遊戯の精神を忘れず、自由を希求する「自娯遊戯」の世界を描いた絵画や工芸品を求めたりしました。そのために、東洋の山水画には、生き方の理想や文学的なテーマが隠されていることが少なくありません。そこには、田舎暮らしのスローライフを求める「楽しい」隠遁から、厳しい現実を積極的に切り抜ける「過激な」隠遁まで、実に多種多様な隠遁スタイルが見いだせます。
本展は、理想の隠遁空間をイメージした山水・風景や、彼らが慕った中国の隠者たちの姿を描いた絵画作品とともに、清閑な暮らしの中で愛玩されたであろう細緻な文房具なども併せて展示いたします。中国の士大夫や日本の文人たちが抱いたマインドフルネス(安寧な心理状態)に触れることで、暮らしを楽しむ生の充実の一助となれば幸いです。
[展示内容]
自由へのあこがれ「隠遁思想と隠者たち」
隠遁の根底にあるのは「脱俗」の考えです。人の心を惑わす富貴や栄華などの世俗的な欲望を絶ち、自然の中でその摂理に身をゆだねて生活することが、隠遁の理想とされてきました。その背景には、現実への絶望感が見てとれます。高い理想を持っていても、現実世界において理想を実現することはしばしば困難を伴うからです。自己を滅し世間に妥協して生きるよりも、理想を堅持しながら自然の中で暮らす道を選び生きたのが、隠遁者たちです。
彼らは知識階級に属しながら政治の世界を俗として仕官せず、世間から隠れて高潔に生きる人々で、隠者や隠逸、高士などともよばれています。
聖天子の尭に招かれても、これをけがらわしいとした「許由」など古代中国の著名な隠者や三国時代末(3世紀)の「竹林の七賢」、南北朝時代(4~5世紀)の「陶淵明」などは、後世まで絵画工芸の主題となっています。また、そうした隠者たちの静閑の暮らしは日本の文人たちの規範として享受もされています。平安・鎌倉時代の「西行」や、江戸時代の「芭蕉」らも俗世を離れた草庵暮らしを積極的に求めた隠者といえます。
理想世界のイメージ
前章で紹介した陶淵明が著した『桃花源記』に登場する桃源郷は、自然の中で、人々が自由に暮らす空間です。そこでは、世の束縛を全く受けず、自然の摂理に従って人々が自由に生きる理想的な世界でした。自然の中で、穏やかに暮らす隠遁の楽しみを高らかにうたいあげた詩人・淵明にとって桃源郷は、まさに隠遁の理想世界なのです。以来、桃源郷に憧れる人々は多く、そこで季節のうつろいを楽しみ、茶や酒を嗜み、静閑の暮らしを楽しむことを夢想しました。
ただ、現実世界にいながら、こうした理想的な生活を実践することは難しいものでしたので、人々は桃源郷への憧れを絵画や煎茶の中に求め、一時の安らぎを得るツールとしました。ここでは桃源郷やそれに通底する安寧な山河イメージを描いた作品を紹介します。
楽しい隠遁―清閑の暮らし
大自然の造形の妙を楽しみながら、飲食や音楽を楽しむことは、現在の観光旅行にも通じるところがあり、老若男女を問わず人々の大きな楽しみです。ただ、自然との共生を第一義に考える隠遁者たちは、大自然の絶景の中に、人智の及ばぬものがあることを見抜き、そこでの人間のあり方などに想いを巡らしました。
蘇東坡の「赤壁の賦」は、そうした山水に遊ぶ情景を格調高く詠っていることから、特に隠遁者たちに愛好され、関連する絵画や工芸作品が多数製作されました。山水に遊ぶ隠遁者は、雄大な自然の中では人間がいかに小さな存在であったかを強く意識していたのです。それは、自然に対して人間の営みを小さく描く山水図にも反映されているようです。ここでは、「書斎」「観瀑」を主題にした作品を紹介します。
時に文雅を楽しむ交遊
俗世間を避け、自然を友として生きる。「晴耕雨読」はそうした生き方を象徴する言葉です。自然の懐に懐かれた草庵や茅屋で、書を読み、また自ら筆を取って詩をしたため、書画を嗜む。また時に飲酒を愉しむ。これも隠遁の大きな楽しみの一つです。
こうして創作された作品は、隠遁の境地でしか得られない鋭い感性に裏打ちされたものとして、多くの人々に愛好されました。そうした嗜好を濃厚に反映した「雅集図」や「臥遊図」などをここでは主に紹介します。また、優れた作品は、隠遁の境地から生まれると考えられ、人々はそれにふさわしい文房諸道具や酒器を取りそろえて、詩書画を嗜みました。
特集展示「住友コレクションの近代彫刻」
住友コレクションには青銅器をはじめ、中国・日本書画や、西洋絵画、茶道具や能装束といった、時代や地域を超えた多種多様な作品が含まれています。その中には仏像など近世以前の彫刻がある一方で、近代以降の彫刻も遺されています。住友家に伝わる彫刻は、決して数は多くないものの、木彫や石膏像、銅像など、多様な素材を用い、時代も明治から昭和にかけた変化に富む作品群です。60㎝以下の小ぶりなものが多く、おそらく当時の邸内を飾っていたものであり、来客の目を喜ばせたものと考えられます。
一方で、住友家は別子開抗二〇〇年記念事業の一環として、明治33年に楠公像の献納を行いました。制作は東京美術学校へと委嘱され、当時の彫刻科教授である高村光雲の指揮下で制作されました。本像は、近代日本における最初期のモニュメント制作であることに加え、制作を通じた技術伝承など若い学生たちへの修学と技術向上を助け、結果として日本美術の振興にも大きく寄与することになりました。
本展では、住友に伝わった彫刻群を初めて一堂に会すことで、彫刻コレクションの全貌を紹介すると共に、作品に流れるコレクターの美意識を読み取ることを目指します。
主催:公益財団法人泉屋博古館、日本経済新聞社