堅山南風《大震災実写図巻》と 近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春
会期: 2023-07-19 - 2023-11-05
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
日本画
平面
開催内容
大正12(1923)年9月1日、関東を中心とした地域において大地震が発生し、それによる関東大震災と呼ばれる災害が起きました。死者や行方不明者は10万人以上にのぼり、建物や交通などの被害も甚大でした。2023年の本年は、それから100年にあたります。
美術界も多大な影響を受け、東京や近郊に住んでいた画家の多くの作品も灰燼に帰してしまったのです。その一方で、震災の惨状を描いた画家もいました。彼らの代表的な作品として鹿子木孟郎(1874~1941)《大正十二年九月一日》、西村五雲(1877~1938)《関東大震災絵巻》、平塚運一(1895~1997)《東京震災跡風景》シリーズなどが知られていますが、今回展示する堅山南風(1887~1980)の《大震災実写図巻》も、そのひとつです。
巣鴨の自宅で被災した南風は、浅草や上野に出向いて、被害状況や復興に至る様子を描き留め、のちに31枚の絵を3巻に仕立てました。当時の人々の苦悩、悲哀や助け合いの様相が伝わってきます。序文に「かかる非常の時に吾等を慰め且つ精神上の苦痛より救玉ふは大慈悲の観世音菩薩である」と述べ、巻末に観音菩薩を描いて終えています。
あわせて、南風とほぼ同時代に活躍した、近代の日本画家による作品12点を展示します。会期前半の9月10日(日)までは、南風の師である横山大観(1868~1958)の《霊峰不二》をはじめ、川合玉堂(1873~1957)《溪山晩秋》、棟方志功(1903~1975)《十和田観湖岸之図》、山田申吾(1908~1977)《山峡》など、日本の風景を題材としたものです。9月13日(水)以降の会期後半は、竹内栖鳳(1864~1942)《猿乗駒》、鏑木清方(1878~1972)《芙蓉》、小杉放菴(1881~1964)《柳湾打漁》、前田青邨(1885~1977)《紅白梅》、山口蓬春(1893~1971)《春寒》など、人物や動植物の絵画を取り上げます。いずれも初めて紹介するものです。
また本年は、今回特集展示される近代作家のうち、川合玉堂が生誕150年、棟方志功が生誕120年、山口蓬春が生誕130年の節目という記念すべき年となっております。
[見どころ]
凌雲閣の倒壊や被害を拡大させた火事など、大地震発生直後の様子が生々しく描かれた「上巻」
1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災の当日は、堅山南風(1887~1980)が所属する日本美術院の展覧会初日で、南風は上野の会場に足を運んだ後、巣鴨の自宅で被災しました。その後、数日間さまざまな場所を訪れ、震災の惨状や復興へと向かう様子を追っています。地震の発生からその惨状、復興に向かう様子を描いた31図を、3巻に仕立てたのが《大震災実写図巻》です。依頼を受けて制作された作品ですが、さまざまな場所でスケッチを重ねていたと考えられます。上巻・中巻・下巻と続きますが、とくに上巻は、南風が画巻制作に向けた思いを記した「序」から始まり、大地震発生直後の様子が描かれています。地面が裂け、列車は横転し、浅草十二階と呼ばれた凌雲閣が倒壊する様子が生々しく描かれています。
避難生活、縁故者を探す様子、焼け野原、そして復興に向かう様子が描かれた「中巻」「下巻」
続く中巻では、避難する人々の姿を描いており、屋外での生活、怪我人の手当、家族を探す様子など、当時の混乱がうかがえます。上野公園にある西郷隆盛像の台座には、縁故者を探す貼り紙や立て札が掲げられています。下巻の前半は、被災者間の争いや、焼け野原のなかで棺を担ぐ人々など悲哀に満ちた場面が続きます。後半には、食糧の販売が始まり、店舗や家屋が建てられていく復興の様子が描かれています。
《大震災実写図巻》の最後に描いた観音菩薩
1923年(大正12年)9月1日に起きた大地震を、「前兆」から「大悲乃力」まで31図にわたり描いていた《大震災実写図巻》。観察眼の際立つ記録画ですが、最後には複数の卒塔婆とともに「慈眼視衆生福聚海無量是故応頂礼 大正十四年夏 南風写」と観音経の一節が記され、観世音菩薩の姿を描きました。観音菩薩で絵巻を終えるところに、南風という日本画家の思いを探ることができます。
南風の師である横山大観、ほか同時代の日本画家らの作家を前後期にわけて初公開
関東大震災の当日、上野の院展会場を訪れた後、戻った巣鴨の自宅で激しい揺れに見舞われた南風ですが、翌日には師の安否を心配し、徒歩で上野池之端の横山大観邸へ向かい、無事を確認しています。その師の横山大観の代表作であり重要文化財の《生々流転》(1923年 東京国立近代美術館蔵)は、初日に関東大震災の起きた再興第10回院展への出品作でした。生涯を通じて富士山を主題とした絵を多く描いたことでも知られる横山大観の《霊峰不二》は、本展で初公開となります。昭和14年の作品で、手前に三保の松原、奥に冠雪の富士山を配しています。
その他、南風と同時代の画家、川合玉堂、棟方志功、山田申吾、竹内栖鳳、鏑木清方、小杉放菴、前田青邨、山口蓬春らによる作品を前後期に分けて初公開します。