スペインのイメージ: 版画を通じて写し伝わるすがた
会期: 2023-04-08 - 2023-06-11
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
開催内容
「スペイン」という国についてみなさんはどのようなイメージを抱くでしょうか。異国情緒、豊饒な芸術文化、歴史的建造物の数々…。そのイメージはどのように形成されたのでしょうか。実は「版画」がそのために大きな役割を担っていたのです。
本展では、スペインに関わる版画制作の史的展開を17世紀初頭から20世紀後半までの長大な時間軸で概観します。写し伝えることのできる「版画」が、美術メディアとしてスペインに関するイメージの形成や流布にどのように貢献したか、200点を超える作品から探るこれまでにない企画です。ゴヤやフォルトゥーニ、ピカソ、ミロ、ダリら巨匠たちの仕事を含んだスペイン版画の系譜を辿ることに加え、それらの影響下に英仏で制作された作品も多数紹介します。
また、本展の出品作は、国立西洋美術館と長崎県美術館所蔵のスペイン美術コレクションを中心にすべて国内で所蔵されている作品であり、今日までの日本におけるスペイン美術の受容とそれに付随した豊かなコレクション形成の様相も浮き彫りになることでしょう。制作技術の発展に伴って表現の多様性と多義性を深め続けてきた版画芸術の精髄をご覧ください。
展示構成
1章 伝統への照射
18世紀以後、スペインにおいても自国の歴史や過去の再評価が始まり、文学においてはセルバンテスの『ドン・キホーテ』が、絵画においてはベラスケスの作品が、古典としての地位を確立します。これら黄金世紀の二つの金字塔に対し、後世各国の芸術家たちがどのように挑み、どのように表現していったのか。最初に『ドン・キホーテ』の挿絵の伝統について、次いでベラスケスに基づきゴヤとマネが制作した版画を紹介します。
2章 スペインの「発見」
ロマン主義の流行下、フランスやイギリスからスペインを訪れる旅行客が急増し、スペインの文化文物、風景が盛んに紹介され、エキゾチックな異国としてのイメージが定着していきました。ここでは、19世紀初めの挿絵入り旅行記に始まり、同世紀の外国人がスペインのどのような側面に惹かれ、造形化していったのかを、版画に加えポスターや写真、新聞挿絵など様々な資料を交えて紹介します。
3章 闘牛、生と死の祭典
スペインの闘牛は18世紀後半に近代的な形態や理論が確立され、生と死が隣り合わせにある緊張とドラマから、賛否両論を巻き起こしながらも長きにわたって大衆の耳目を集めてきました。ここではゴヤとピカソ、アントニオ・サウラによる闘牛主題の作例を中心に紹介します。
4章 19世紀カタルーニャにおける革新
カタルーニャ生まれのマリアーノ・フォルトゥーニは、19世紀半ばの欧米で絶大な人気を誇った画家で、スペイン版画史においてはゴヤの影響を脱し、フランスの動向に触れながら優れた作品を制作しました。ここではまず彼の版画の仕事に焦点を当てます。また、19世紀末になると、産業化の進んだバルセロナを中心とするカタルーニャでは、パリのアール・ヌーヴォーや世紀末美術を手本としながら、ブルジョワ層のための新たな芸術が勃興、芸術カフェ「四匹の猫」のような場所が登場しました。本章後半では、若きピカソを中心にバルセロナに集い、更なる活躍の場を求めパリに旅立った芸術家たちの作品を紹介します。
5章 ゴヤを超えて:スペイン20世紀美術の水脈を探る
20世紀のスペインはピカソ、ミロ、ダリ、タピエスなど美術史に輝く巨匠を幾人も輩出しました。本展では、こうした美術家たちがどのようにして自国の伝統と向き合い、それを自らの制作に取り込み超克していったのか、ゴヤを出発点とした2つの具体的な観点から検証します。第一は「エスパーニャ・ネグラ」と呼ばれるもので、20世紀初頭に盛んとなった国家的・民族的なアイデンティティを模索する思潮下、近代化に立ち遅れたスペインの姿が再度注目を浴びた過程を紹介します。ここではバローハやソラーナらの作品が、彼らにとって大きな着想源となったゴヤの版画などと共に並びます。次いで「叫びと抵抗:20世紀スペインにおける政治と美術」と題し、内戦(1936-39)とフランコ独裁(1936-75)という政治的困難の中、芸術家たちがどのように民衆に寄り添い、彼らを鼓舞し自由を求めていったのかを辿ります。
6章 日本とスペイン
展覧会の締めくくりには、戦後の日本人がどのようにして同時代のスペイン美術に親しんでいったのか、その受容過程を版画作品を通じて振り返ります。日本の芸術家との交流から生まれたものや、日本での展覧会などで紹介されたもの、国内で最初に収蔵された作品、また日本でその作家が知られる端緒を築いた作品などを中心に紹介します。