挑む浮世絵 国芳から芳年へ
会期: 2019-04-13 - 2019-05-26
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
浮世絵
版画
開催内容
歌川国芳は旺盛な好奇心と柔軟な発想、豊かな表現力を武器に幕末浮世絵を活性化させた浮世絵師です。本展では国芳の武者絵を中心としながら、月岡芳年ら弟子たちの作品にもスポットをあて、150点の作品と資料によって、彼らが新しい画題と表現に挑み続けた姿を紹介しようとするものです。
なお出品作品は名古屋市博物館の所蔵する国文学者尾崎久弥氏と医学者高木繁氏によるコレクションを中心に構成します。いずれも自分の「好き」をつらぬいて収集された魅力的なコレクションです。彼らの眼を通して、国芳を領袖とする「芳ファミリー」の活躍をご覧いただければ幸いです。
第一章 ヒーローに挑む
歌川国芳の出世作であり、その後も得意としたのが歴史上や物語に登場するヒーローの勇ましい姿を描いた「武者絵」です。国芳は武者絵を描く秘訣を「突然人を投げ出して、投げられた人の動きを観察したり、あるいは組み伏せたときにそれを跳ね返そうとする様子などを覚えておいて、その息込を描くように。」(『暁斎画談』)と教えています。彼の武者絵の魅力は、わくわくする躍動感にあります。その迫力の秘密は、こうした日頃の観察によって培われた「造形力の高さ」にあるのでしょう。そしてその精神は着実に弟子へと受け継がれています。月岡芳年にも同じように、磔の絵を描くために弟子を縛り付けて写生したというエピソードが残っています(『芳年伝備考』)。ここでは国芳が逸話やヒーローたちをどのように表現し、そして弟子たちがいかに受け継いだかをご覧ください。
第二章 怪奇に挑む
ヒーローの勇ましさを強調するためには、彼らが対峙する怪奇をいかに恐ろしく表すかということが重要なポイントになります。また状況が異常であればあるほど画中のドラマ性は高まるものです。国芳は血がほとばしる残虐な場面を描きましたが、弟子もまたその路線を受け継ました。とはいえ、そうした残虐性は、彼ら個人の嗜好からくるものではありません。幕末から明治にかけては読本や合巻といった読み物、歌舞伎や講談、落語、そして見世物といった文芸全般において、幽霊や妖怪が跋扈する話や悲劇の人間ドラマが好まれたのです。「怖いもの見たさ」という名の好奇心、そしてもっと、よりもっと刺激の強いものを求める人間の性は今も変わりません。国芳たちはそうした時代の要請に的確に応えたと言えるでしょう。この章では怪奇を描いた作品や「血みどろ絵」と呼ばれる作品を紹介します。
第三章 人物に挑む
浮世絵の歴史を通じてその中心には常に美人画、役者絵がありました。要するに人物を描くということです。国芳、芳年の美人画では、春夏秋冬、十二ヶ月など、折々の女性の姿を描く作品もいいのですが、「〜したい」という類の作品も見逃せません。理想的な女性の姿を描くのが目的ではなく、女性の心に踏み込んだ表現が見どころです。思いもよらぬ「〜したい」もあって楽しいですし、故事の見立てなどが重ねられれば楽しみ倍増です。身近にいる普通の女性に描かれていることにも好感が持てます。芳年の美人画、特に後半期の作品では、現実味がありすぎてドキッとするものにも出会うことでしょう。役者絵では、格好いいその姿を提供するという本来の役割を超え、役者の名演技や実力を伝えてくれる迫真的な作品が両者にあります。国芳、芳年の作品の面白さは武者絵や歴史画だけではありません。二人の名人には、美人画、役者絵にも、思いのほか楽しめるものが沢山あるのです。
第四章 話題に挑む
ここでは当時の世相をネタにした戯画や、話題となった見世物に取材したものなど、ニュースソースとしての作品を紹介します。国芳の戯画(滑稽な絵)はバリエーションの豊富さと、アイデアの奇抜さにおいて他の追随を許しません。第一章の武者絵と並んで彼が浮世絵界に残した新機軸といっていいでしょう。そうした、ただユーモラスなだけにみえる国芳の戯画のなかには、幕政を風刺しているとしてさまざまな噂が飛び交ったものもあります。もちろん事情を知らなくとも楽しめるのが国芳作品のすごさなのですが、当時の状況を背後に眺めてみると、また違った側面が見えてきます。江戸の人々が国芳の戯画に求めたものとは?国芳作品の「面白い」には「裏」がある。国芳らが時代をどう捉え、いかに商品としたのか、その挑戦をご覧いただけることでしょう。
終章 芳ファミリー
一時、国芳に学んだ河鍋暁斎が国芳画塾の様子を描いた図がのこっています(『暁斎画談』)。国芳先生の前に座るのが七歳の暁斎ですが、猫が走り回り、何とも自由な雰囲気に包まれ、度量の大きい国芳の人間像がうかがえるというものです。親分肌だったといわれる国芳には多くの絵師が弟子入りし、その多くが画号に「芳」の字をつけています。なかでも「最後の浮世絵師」といわれた芳年はとりわけ印象的で、国芳の刷新した浮世絵に近代の装いをまとわせながら、すべてのジャンルでさらに進化させています。また「錦絵新聞」で印象深い芳幾、戯画の芳藤、三枚続のパノラマ武者絵で秀作を残す芳艶と、それぞれに個性を発揮しています。終章では国芳作品のDNAを持つ絵師たちを「芳」ファミリーとしてまとめ、人々に情報と楽しみを提供し続けた浮世絵最後の光芒をご覧いただきたいと思います。