劉敏史写真展《−270.42℃, My cold field》
会期: 2011-05-28 - 2011-06-25
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
写真
展覧会タグ:
開催内容
我々、ホモサピエンス=知恵のあるヒトとは一体、何者であるのか。
地球上には幾多の生命体が棲息している。ヒト以外にも知能を持つ生命体は数多くいる。しかし、ヒトの知る限り、宇宙を探求するのは、ヒトのみである。現在のところ、ヒト以外で宇宙を探求する生命体の存在は知られていない。460億光年の地平へと広がる宇宙の中で、我々、ヒトだけが宇宙を認識する生命体だという可能性もある。
古代よりヒトは、月を見上げ、星々を眺め、それらに囲まれて存在してきた。ある日、ヒトは見上げたその場所へ行くことを決断した。遠く見渡せる道具を発明し、遠くへ向かう乗り物を発明し、長い時間をかけて探求の準備をした。宇宙とは一体、何であるのかを知るために。
私たちヒトとは何かと問う時、宇宙とは何かという問いに立ち竦む。宇宙とは何かと問う時、私たちヒトとは何かという問いに立ち戻る。
宇宙の年齢は、137億歳±2億歳といわれる。創成直後の宇宙は、掌に乗るようなサイズであった。高温、高圧、高エネルギーの状態で、宇宙はビッグバンで始まったのだという。その後、時間と共に膨張し、宇宙は460億光年の地平へと拡がった。現在、宇宙の平均温度は摂氏-270.42℃。私たちはとても冷たい宇宙に包まれて生息しているということになる。ビッグバンの頃、宇宙の素である粒たちは高エネルギーのため、原子を形成することもできなかった。しかし宇宙は拡がるにつれ、徐々に冷えていった。そこで、まず原子が、次に分子が、さらに星が、そして銀河が形成され、終に生命が誕生した。現在、摂氏-270.42℃という極低温の宇宙に地球は浮かび、ヒトは存在している。我々、ヒトは、この冷たい地平で密やかに棲息している。
茨城県つくば市にある、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、宇宙の起源を研究している。
宇宙を探求するのは、望遠鏡ではなく、宇宙船でもない。それは、加速器と呼ばれる装置である。加速器は、電子やその反物質である陽電子を加速し、互いを衝突させることにより、過去、宇宙の創成時に存在していた素粒子を作りだす。そしてそれら素粒子を観察する大きな顕微鏡のようなものである。いわば、宇宙を創り、宇宙を観察する装置である。KEKの加速器KEKBと素粒子の反応を記録するBELLE測定器は、「何故、宇宙が安定して存在できるのか。」という問題に取り組み、2008年のノーベル物理学賞受賞となった小林・益川理論を検証した。
その後、加速器KEKBとBELLE測定器は2010年6月30日にその役目を終え、KEKB高度化プロジェクトが始まっている。この写真展で展示するのは、高度化の為に加速器KEKBとBELLE測定器の解体が進められている施設内を記録することを通し、現在の先端科学、または今現在の人類の限界とそれを乗り越えようとする営みを記録しようとした写真群である。
劉 敏史
劉 敏史写真展「−270.42℃, My Cold Field」のご案内
劉 敏史(You Minsa)は、1974年生まれの写真家。これまでにVisual Arts Photo Award 2005を受賞した「果実」(エチオピア南部に在住するHAMARというエスニックグループを撮影)をはじめ、人や事物の存在そのものを問いかける作品を発表してきました。
今回、劉が取り組むことになったのは、つくばにある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設内の記録です。宇宙を創ることにより宇宙を観察する設備とも言える加速器は先端科学でありながら、科学者の探求の営みとその痕跡を生々しく刻んでいます。「宇宙とはなにか?」「人間とは何か?」 科学と写真、宇宙と人とが交差するところに、今回の作品は生まれました。
今回の展示をスペースAKAAKAで開催するに当たっては、日頃の活動を広く一般に紹介したいというKEKの意向と協力がありました。会期中、劉と科学者との対談などを通して、作品の奥行きに触れていただければと存じます。
株式会社赤々舎 代表取締役 姫野希美