旅の風景 安野光雅:ヨーロッパ周遊旅行
会期: 2015-07-07 - 2015-08-23
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
平面
開催内容
安野光雅(1926年~)は、画家、絵本作家、装丁家として幅広く創作活動を続け、その知的で独創性あふれる作品は海外からも高く評価されています。なかでも、国内外の取材旅行を通じて取り組んだ風景画は、彼の代表的なテーマのひとつです。安野は1963年に初めてヨーロッパを訪れて以来、各国を旅しながら心に留まった風景を描いてきました。
それらは、鉛筆の柔らかな線に淡い水彩で仕上げられ、静かな旅情を湛えています。また高所からの視点で精緻に情景を描きこんだ『旅の絵本』シリーズのように、想像力や遊び心に富んだ風景画も手がけています。
本展は、画家の郷里(島根県津和野)にある安野光雅美術館のコレクションから、ヨーロッパの風景に焦点をあて紹介するものです。旅先のスケッチにもとづく旅情豊かな風景、絵本のための風景など、水彩原画約100点を展示し、安野光雅の絵画でヨーロッパ各地を巡ります。
第1章 ヨーロッパ周遊旅行
安野光雅は1963年、37歳の時にはじめてヨーロッパを旅しました。1960年代後半より精力的に絵本の出版を重ねる一方、78年より『アサヒグラフ』の連載として、イタリアの紀行文とともに旅先の風景画を発表します。以来、ヨーロッパ各地を旅して風景画を描くようになります。風まかせに旅しながら、目の前に広がる風景と、そこに生きる人々の営みをとらえた安野の絵は、同時に彼の眼差しと心が重なり合い紡ぎ出された世界なのです。
この章では、イタリア、スペイン、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、オランダ、クロアチアの国々を描いた風景画を紹介します。
第2章 歌の風景
安野は、世界で人々から愛され、歌い継がれてきた名曲を選び、その歌が生まれた土地を旅しました。選んだ歌の中には、「アビニョンの橋の上で」や「トロイカ」などの民謡や、シューベルトの「菩提樹」やヨハン・シュトラウスの「美しく碧きドナウ」といったクラシック音楽も含まれています。それぞれの歌の歴史や安野自身の旅の思い出を綴った楽しいエッセイとともに、想像力と詩情豊かに歌の風景を描き出しています。
第3章 旅の絵本
安野の代表作のひとつ『旅の絵本』シリーズには、三角帽をかぶり馬に乗るひとりの旅人が登場します。旅する道は次のページへと連続し、画面は鳥のように見下ろす視点で展開していきます。言葉は一切なく、画面いっぱいに描かれた細密な情景に見る者をひきこみます。そこには人々の生活とともに、名所や旧跡、名画・文学・映画・歴史の場面などがちりばめられ、安野ならではの空想や遊び心のある仕掛けを発見する楽しみがあります。この章では、イタリア、イギリス、スペイン、デンマークを旅する作品を紹介します。
第4章 繪本 即興詩人
『即興詩人』は、1835年にデンマークの童話作家アンデルセンが発表した恋愛長編小説です。ローマ生まれの即興詩人アントニオが、歌姫との悲恋や親友との決闘など、波乱に富んだ青春を送る姿を描いています。日本では森鷗外による翻訳が1902年に出版されました。同郷(津和野)の鷗外の文語体の美しさに魅せられ、「無人島に行くときにもっていく一冊」というほどに心酔した安野は、舞台のイタリア各地を聖地巡礼のように取材し、画文集『繪本 即興詩人』にまとめました。本章では、この画文集に収められた作品の原画を紹介します。
第5章 風景画を描く
安野は1995年、NHK趣味百科で放映された『安野光雅 風景画を描く』に出演しました。この番組は、安野が敬愛する画家ゴッホ終焉の地フランスのオーヴェール・シュル・オワーズをはじめ、フランス、イギリス、イタリアを旅しながら、各地の風景を水彩で描くという講座でした。安野はこの中で、見取り枠で写実的に風景を描くなどの実験をしていますが、絵は機械的な忠実さよりも、ゴッホのように創造性豊かに自由に描くことが大切であると改めて感じています。この章では安野の制作の秘密を紹介します。