梅津庸一「智・感・情・A 」
開催概要
開催内容
梅津庸一(1982年山形県生まれ)は東京造形大学絵画科卒業後、第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展(2006年)にて準大賞を受賞し、近年では「絵画説明会」(2011年、スプラウトキュレーション)、「であ、しゅとぅるむ」(2013年、名古屋市民ギャラリー矢田)といった絵画の制度的問題や受験教育の痕跡を辿る実験的な展覧会にも参加しています。5年ぶりの個展となる本展では、タイトルにもある《智・感・情》を基軸に美術史への複数の点からの接続を試みます。
これまで梅津は、取り組んできた“自画像”というテーマのなかで、身の回りのことや、日本の近代絵画に影響を与えたラファエル・コラン(1850-1916)の「フロレアル」をはじめ、彼に師事し日本の美術教育の礎を築いた黒田清輝(1866-1924)らの作品を引用してきました。無数の光の粒で構成されるかのような独自の色彩と筆致を用いて、露わになった作家自らのすがたを、理想化することなくありのまま描き出す行為からは、身体的特徴すらも作品として定着させようとする姿勢が見受けられます。
先に述べた《智・感・情》といえば、黒田清輝が1899年に発表した裸体画です。数々の研究がなされてもなお、作者本人による言及がないために謎が多く、それゆえ人々を惹きつけ続けます。日本人画家による初めての日本女性の裸体画、という事実の鮮烈さが先攻しがちですが、平滑な金地の背景、西洋美術に基づき理想化された女性の身体などを用い、日本を含むアジア/東洋の美術を世界的な美術史に対して示し、具体的な思想との関係性を女性のポーズやタイトルに内包する東洋の自画像として表現されているかのようです。
また《智・感・情》に触れるうえで、村上隆が2010年に制作した《黒田清輝へのオマージュ「智・感・情」》の存在を避けることはできません。黒田と同じ金地の背景に描かれたのは、イラストレーターによるアニメ風の女の子でした。そこでは、黒田とは異なる身体の理想化が現代に即した形で図られ、また性への追求も鋭く行われています。現代美術のシーンにおいて、世界的な活躍をみせる村上が、西洋の教えを取り入れるだけでなく東洋の姿を強く表した黒田の作品をリメイクすることは、必然的だったと言えるかもしれません。
黒田の後を生きるわたしたちが少なからず影響を受け、思想的にもまた作品としても継がれゆく《智・感・情》、梅津はそのひとりとしてただ道をなぞるのではなく、素地にある日本の美術史をはじめ、東洋・西洋美術史との関係性、そして梅津をとりまく日々の生活や美術の現状、これらすべてを等しく接続していきます。無数の矢印が行き交うことで生まれたこの関係図は、そのまま立ち上がるかのようにギャラリー空間に姿を現します。
また、会期中には、過激なハプニングで「裸体」を美術に持ち込んだゼロ次元を念頭においたパフォーマンスやトークショーも行われます。絵画における裸体画の歴史だけでなく自らの身体を使ったパフォーマンスによって文字通り、コラン‐黒田清輝‐ゼロ次元と日本における「裸の系譜」とこれからを提示します。絵画として、あるいは梅津自身が両義での自立/自律をみせる展示空間で《智・感・情》、そして《A》とは何であるのか、ぜひご高覧下さい。