「ET IN ARCADIA EGO 墓は語るか ―彫刻と呼ばれる、隠された場所」展
会期: 2013-05-20 - 2013-08-10
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
デッサン・ドローイング
インスタレーション
立体
彫刻
開催内容
彫刻芸術の核心は感覚の及ばぬ=決して現実空間の延長として捉えることのできない別の場所、すなわち感覚されうる現実と切断された、感覚の侵入できぬ別の場所を匿うことにある。
視覚や触覚などの感覚が捉えうるのは、彫刻の表面にすぎない。感覚(視覚や聴覚、触覚も)は距たりある対象を捉え、ゆえにわれわれの知りえる現実を拡張する力をもつ。だが反対にいえば、よって感覚が捉えうるものは、その現実の境界面の現象にすぎない。絵画はその能力によってその境界をさらに拡張する。けれど彫刻はむしろその現実内に与えられた自らの領域の限界=形態に閉じこもるように現れる。
彫刻芸術の逆理は墓のもつ二重性そのものと重なる。例えれば感覚が捉えることができる彫刻は墓標のようなものである。けれどいうまでもなく墓の本質は、決して現世とは連続しえない、そして現世よりはるかに長く持続する時間と空間を墓室として保持し、そしてその場を現世のinterest(関心、利害)が侵入しないように匿うことにある。
cryptとは地下墓地であり、Cryptographyは暗号。すなわち彫刻は、感覚されることによって自らを隠す。現世という時空と不連続な空間、現世が拡張し侵入することが不可能な空間を隠し持つ、内包することにこそ本質があった。
展示は、古代より存在論的に不可分だった墓と彫刻の関係を歴史的に通観し、彫刻が担う今日的な課題を照らし出す問題群として構成する。
第一部 「墓」をめぐるコンセプト展示
「墓」という「隠された場所」をめぐって、古代彫刻から現代彫刻さらには建築やドローイングまで約30点を一つの問題群として展示を行ないます。彫刻表現本来の豊かな姿を想起させる古代イタリアのエトルリア人の死生観から生まれた彫像や、近代から現代へと移りゆく中で墓標のように人間の在処を指し示してきた彫刻作品や建築など、時代あるいは社会の大きな流れを超えて彫刻深部に幽閉されてきた本質的な問いをめぐって作品を展示します。現代においては日常的に隠されている、あるいは目の届かない場所に格納されてしまった問題、それらと彫刻とが本来的に共通して孕んでいる普遍的な問題について本展示を通して探っていきます。彫刻が抱えている今日的な課題を理解する上で一つの重要な手がかりとなります。
さらに本展に合わせて、幻となったイサム・ノグチ「広島平和記念公園慰霊碑」、白井晟一「原爆堂」「ノア・ビル」についてその造形的特質を明らかにする新たな模型を制作する予定です。
第二部 7名の現代彫刻家による作品展示
<出展作家>戸谷成雄、遠藤利克、黒川弘毅、伊藤 誠、岡﨑乾二郎、三沢厚彦、髙柳恵里
武蔵野美術大学 彫刻学科研究室の教員7名が、共通の問題意識として「墓」という隠された場所をめぐって彫刻に纏わる様々な思考や表現を試みます。「墓」は、それ自体をモチーフにこの7名が作品を制作・展示するのではなく、彼らの作品を読み解く上で通底するキーワードとなります。本展を通して昨今の多様化する芸術表現の中で彫刻を単なる立体表現として相対的に解釈するのではなく、7名の作家の作品展示を通して本来的に彫刻が持つ核心部を再確認し、さらに彼らの視線の向こうにある次代の彫刻における新たな可能性を予見させる展示となります。
展示場所は展示室だけでなくアトリウムや前庭など様々な場所へと拡張し、7名の作家による新作を含む約10点の大作を中心に展示します。様々な表現方法からアプローチした彫刻作品は、巨大な構造物から精緻なインスタレーションまで多彩な表現が交錯するダイナミックな展示となります。