レオ・レオニ 絵本のしごと LEO LIONNI BOOK! ART! BOOK!
開催概要
- 会期
- 2013年06月22日 〜 2013年08月04日
- 会場
- Bunkamura ザ・ミュージアム (東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F)
- 参加クリエイター
- Leo Lionni
- ジャンル
- アート
- タグ
- 絵本
開催内容
小学校の教科書で読んだ『スイミー』。繊細で柔らかな色彩で綴られた、知恵と勇気で危機を乗り越える小さな魚たちの物語が、深い記憶の底から、しかし決して埋もれてしまうことなく甦ってきます。
作者のレオ・レオニは、オランダ生まれ。9歳からデッサンの基礎を学び、その後イタリアで前衛芸術運動である未来派の展覧会に参加しますが次第に運動から遠ざかり、グラフィック・デザイナーとして活動を始めます。第二次世界大戦中にユダヤ人であることから亡命を余儀なくされたレオニは、移住先のアメリカで、グラフィック・デザイナーとして活躍しながら、画家、彫刻家としても活動の幅を広げ、49 歳の時に絵本の世界へと足を踏み入れました。子供のための本作りを、「私自身の気にかかっている問題を論じるための表現形式」と捉えていたレオニは、以来、亡くなるまでに40 冊近い絵本を生み出すことになります。レオニの描く絵本では、小さな主人公たちが、「自分らしく生きること」をテーマとした心温まる物語が展開します。低い視点から見られたミクロの世界のできごとは、瞬く間に読者を空想の世界へと引き込み、「自分探しの」の旅へと誘うのです。
本展はレオニの遺族とアメリカのエリック・カール絵本美術館から、絵本原画約100 点とともに、幻想の植物群を描いた「平行植物」シリーズ、メキシコへの旅の体験を基に描いた「仮面」のシリーズなど、油彩や版画、彫刻、資料など約30点を出品し、4つのテーマにわけて、生誕100 年を迎えたレオニの「絵本のしごと」を紹介します。
第Ⅰ章 個性を生かしてちょっぴりかわり者のはなし
二人の伯父がかなりの美術収集家だったことから、キュビスムの作品や同時代の美術に囲まれて育った子供時代の経験を持つレオニには、心を豊かにする芸術を、身の回りにあるべき、衣食住と同じくらい大切な存在だと感じていました。社会における芸術家の役割は、絵本『フレデリック』(1967 年)の中で主人公のねずみに託して語られています。楕円を基調にし、大きな耳と長いしっぽが特徴的な単純な形のねずみの姿は、絵に柔らかさを出すために、手でちぎった切り絵のコラージュ技法を用いて表現されました。冬に備え、食べ物をせっせと集める仲間の野ねずみたちのなかで、じっと動かずにいるフレデリック。やがて冬がきて食べ物が尽きたとき、フレデリックは集めておいた光や色で皆に幸せな時をもたらすのである。ここでは、イソップ寓話の「アリとキリギリス」のような教訓とは無縁の、芸術を介した人と人のつながりが豊かさをもたらすことが、淡々と語られています。
また、70 歳目前のレオニが自身の生涯を重ねて作り上げた、絵描きになったネズミの物語、『マシューのゆめ』(1979年)。新聞紙や切り紙のコラージュと水彩によるブラッシュワークで構成された色鮮やかな場面に魅了されながら、私たちは、芸術を表現する者と楽しむ者とのつながりの中で、ときに魔法のような出会いをもたらす、美術館という場の持つ力を再認識することにもなるでしょう。
第Ⅱ章 自分は自分 みんなとちがうことはすばらしいこと
1959年に発表されたデビュー作、『あおくんときいろちゃん』は、色彩の原理がシンプルな形で展開する抽象絵画のような作風で、大きな反響を呼び起こしました。汽車の旅で孫たちが退屈しないように、持っていた雑誌を手でちぎって即興のお話を聞かせたことから生まれたこの物語を、レオニは「自己認識の物語」と定義づけています。実際レオニはインタビューの中でも、「この社会でもっとも悲劇的なことは自己認識に欠けた人物がいるということだ。己とは何者かを知っている者だけが、社会的行動を寛容さを持って行うことができる」と述べ、社会における個々人の自己認識の必要性を強く訴えています。「自分は一体何者なのか」―彼が生涯追い求めたこのテーマは、自分だけの色を探して悩み続けるカメレオンを主人公にした『じぶんだけのいろ』(1975年)や、自分を誰かの部品だと思っている小さなかけらの物語『ペツエッティーノ』(1975年)においても繰り返し問いかけられています。水彩の濃淡を生かした透明感のある色彩が特徴の『じぶんだけのいろ』に対して、『ペツエッティーノ』は、小さなものの集積で大きなものをつくるというモザイクの手法とシンプルなデザイン感覚が印象的な作品であり、様々な手法を巧みに操る、この画家の高い技量が見てとれるでしょう。
第Ⅲ章 自分を見失って よくばりすぎはよくないはなし
「仮面とは、人間が発明したものの中で最も素晴らしいものの一つ」と語るレオニは、メキシコのパエマという町で目にした復活祭の仮面行列をもとに、仮面をつけた人々の姿を油彩作品などに描きました。この旅の視覚体験に基づく『みどりのしっぽのねずみ』(1973年)は、珍しく油彩で仕上げられた絵本作品で、鮮やかな原色が特徴のメキシコの民衆芸術の影響が色濃く窺えます。人間の真似をして仮面をつけたことで、次第に我を忘れてしまた野ねずみたちの話を通して、仮面の魅力と、それに抗えない人間の愚かさを暗示するテーマが展開します。
一方、1970 年代からレオニが取り組んだ、「時空のあわいに棲み、われらの知覚を退ける植物群」である「平行植物」シリーズは、版画や油彩画、彫刻へと豊かな展開を見せ、1976年には書籍『平行植物』へと結実しました。このシリーズは、絵本においては、父親から聞いた愚かなかたつむりの話を忘れずに賢く生きたかたつむりの物語、『せかいいちおおきなうち』として発表されました。幼い頃にガラスの飼育箱の中に自分だけの空想の庭をつくっていたというレオニは、この自然を真似たミニチュアの世界の中から、絵本の主人公たちが生み出されたと語っています。
第Ⅳ章 知恵と勇気 ちいさなかしこいゆう者たちのはなし
1963年に発表された4冊目の絵本『スイミー』で、レオニはアメリカの画家として初めてブラティスヴァ世界絵本原画展、金のりんご章を受賞しました。赤い魚たちの中で立った一匹の黒い魚だったスイミーが、「ぼくが目になろう」と力強く宣言し、仲間とともに危機を乗り越えるこの物語には、3 年前に発表され、同じく知恵と勇気で苦難を乗り越えるしゃくとりむしを主人公とした『ひとあし ひとあし』と同様に、読者を勇気づける強いメッセージが込められています。困難から逃げることなく、行動力で突破口をひらく主人公たち。ベルリンの壁が崩壊した1989年に発表された絵本、『どうするティリー?』では、壁の向こう側をなんとか見たいと知恵をしぼって奮闘する野ねずみティリーがドイツの東西統一のシンボルとなるなど、個人的解決がひいては社会的解決を導きだすことが示されています。
自然を模した空想の世界から生まれたというレオニの絵本に登場する小さな生き物たちは、観る者を空想の世界へといとも簡単に招き入れます。一堂に会するレオニの作品群を前に、私たちは、レオニが「自分らしく生きる」というメッセージを伝えるために、実に変化に富んだ世界を次々と生み出していったことに驚きを禁じえません。「ストーリーにもっともふさわしい手法を使おうと努めている」とレオニ自身が語るように、コラージュ、油彩、水彩、クレヨン、色鉛筆など多種多様な技法を駆使して紡ぎだされるその作品世界は、まさに型にはまらない、ジャンルや国境を越えたレオニ作品の魅力を余すところなく伝えているといえるでしょう。幼い頃の記憶のかけらとともに、レオニの空想の世界に身をゆだねるとき、私たちは知らないうちに、心の扉が少しずつ開かれていくのを感じるのではないでしょうか。