安原杏子 個展「山女譚 」

開催概要

会期
2026年09月26日 〜 2026年10月18日
会場
LEESAYA (東京都目黒区下目黒3-14-2)
参加クリエイター
安原杏子
ジャンル
アート
タグ
インスタレーション、映像、オープニングレセプション

開催内容

安原杏子(やすはら・きょうこ)は、1990年広島県生まれ、広島と東京を拠点に活動するアーティストです。映像、写真、音楽、3DCG、フィールドワーク、出版など、多様な方法を横断しながら、他者や土地との距離、記憶、移動、時間の堆積、そして「かつて存在した空間」や「これから消えていくかもしれない場所」に目を向けた制作を続けています。

安原の実践を特徴づけるのは、特定の表現形式を出発点とするのではなく、対象や問いに応じて必要な方法を選び取り、それらを組み合わせながらひとつの作品世界を構築していく姿勢です。写真や映像による記録的な視線と、アニメーションや3DCGによる想像的な操作、フィールドで採集した音、テキストやリサーチなどが並列に扱われ、現実と虚構、個人的な記憶と土地の歴史が複雑に重なり合います。

山間部で育った経験は、安原の制作における「距離」「消失」「周縁の時間」への感覚の原点となっています。それは単に故郷を懐かしむ視線ではありません。ある土地から離れることで初めて見えてくるもの、時間を隔てることで変化する記憶、誰にも記録されないまま失われていく場所や出来事。安原は、そうした曖昧で捉えにくいものを、リサーチと制作を往復しながら丁寧に拾い上げてきました。

近年は、ハワイにおける日本人移民の移民史など、人やものの移動と土地の記憶を手がかりに、「小さな歴史」と社会の大きな変化が交差する場所へと関心を広げています。個人的な経験から出発しながら、それをより広い社会的・歴史的な文脈へと接続していく点も、安原の制作における重要な特徴です。

本展「山女譚」は、安原にとってLEESAYAでの初個展となります。2025年に開催された「Spring Show」では、フィールドレコーディングによって採集した誰かのピアノの練習音を用いたサウンドインスタレーションと新作映像を発表しました。

今回は、安原自身の故郷である広島県比婆地域にまつわる歴史を起点とした新作映像作品を発表します。

本作は、古事記の中でイザナミの墓とされる比婆山御陵に連なる妙見山が砕石され、その石が中国自動車道や、県内の様々な建築物の建設に使用されたという事実から着想を得ています。神話のなかで神の身体が眠る場所とされてきた山が切り崩され、その石が道路となり、人々の移動を支える現代のインフラへと姿を変える。この「神の墓を砕く」という出来事を、安原は過去と現在の断絶としてではなく、土地が砕かれ、運ばれ、別の場所で新たな形を与えられていく連続した現象として捉えています。

また、その道路は安原自身にとっても、故郷を離れ、そして帰ることを可能にしたものです。土地の変化と自身の移動を重ね合わせることで、神話、地質、開発、個人の記憶が交差する場所を描き出します。

作品では、比婆山や砕石現場、中国自動車道などの実写映像に加え、砕かれたイザナミが土地へと散り、地形として再構成されていくアニメーションを組み合わせます。さらに、サイレン、岩の崩落音、発破音、車両の走行音など、現地のサウンドスケープを取り入れることで、土地の変化と人間の活動を重層的に立ち上げます。

安原は、映像、音、アニメーション、3DCGなど、それぞれの対象に応じて異なるメディアを選択し、現実の記録と想像力を往還しながら作品を構築してきました。本作においても、土地に残された痕跡を記録するだけでなく、そこから新たな物語を立ち上げることで、失われたものが別の形で現在に残り続ける可能性を探ります。

「山女譚」は、土地の記憶と自身の帰郷を重ねながら、神話と現代、破壊と再生、移動と記憶のあいだに生まれる新たな物語を描く試みです。

安原杏子 個展「山女譚 」