うき世のたわむれ:笑いつづける浮世絵と幕末明治の渦

開催概要

会期
2026年09月12日 〜 2026年11月23日
会場
町田市立国際版画美術館 (東京都町田市原町田4-28-1)
ジャンル
アート
タグ
平面、版画

開催内容

社会が危機に瀕しても、なぜ浮世絵は笑いつづけるのか―
いま生きるこの世を描く浮世絵には、現世を苦しみ(「憂世」)ではなく、楽しみ(「浮世」)として捉える考え方があります。なかでも戯画は、「たわむれ」の絵として見る者を笑いに誘い、近年高い人気を誇っています。
本展覧会では、当館の浮世絵コレクションを中心に、幕末明治期の戯画をおもにご紹介します。幕末明治期は、天災や戦争によって人々の間に不安が渦巻いた、まさに混迷の時代でした。しかしながら浮世絵は、そうした時代でも屈することなく「たわむれ」に興じつづけ、描かれたキャラクター達は決して笑いをやめなかったのです。
歌川広重や歌川国芳による戯画のほか、鯰絵や麻疹絵、幕末期の風刺画、昇斎一景の開化絵、そして小林清親のポンチ絵など、前期・後期あわせて約250点の出品作を通じ、うき世(憂世・浮世)における「たわむれ」の軌跡をご覧ください。

前期2026年9月12日(土)〜2026年10月12日(月・祝)
後期2026年10月15日(木)〜2026年11月23日(月・祝)
展示替えがあります

[展示構成]
第1章 歌川広重の名所絵、戯画
歌川広重(1797~1858)による『東海道五拾三次(保永堂版)』は、叙情豊かな東海道の風景とともに、旅人たちのユーモアに満ちたドラマを描いた作です。客引きから必死に逃れる人など、広重の風景画のなかには笑いの要素が溢れています。また、本章では揃物『即興かげぼし尽くし』も紹介。広重の戯画の代表作で、男性たちが不思議なポーズを取り、お座敷芸として親しまれた影絵遊びに挑戦しています。

第2章 歌川国芳の戯画、風刺画
歌川国芳(1797~1861)は、戯画の名手として今でも多くのファンを惹きつけています。《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》は、複数人で男性の横顔を作ったもの。国芳の戯画の代表作として知られています。また国芳は、当時の出版規制を巧みにかいくぐった絵師でもありました。大津絵のキャラクターを描いた《浮世又平名画奇特》は、江戸幕府を風刺した作品として当時評判になりました。

第3章 鯰絵、麻疹絵
安政2年(1855)10月2日夜、安政の江戸大地震が発生しました。このとき、「地震は地中のナマズが暴れて起こるもの」という言い伝えにもとづいて、地震によって変化した社会とナマズを描いた「鯰絵」が制作されています。さらに文久2年(1862)には、日本全国で麻疹が流行しました。江戸では麻疹を題材とした麻疹絵が出版され、そこには荒唐無稽な予防法や、見えない病気を可視化した独自のキャラクターが描かれています。科学や医療が未発達であった時代に、人びとは笑いの力で社会的な危機に立ち向かったのです。

第4章 将軍上洛もの、あわて絵、合戦絵、子供遊びもの
幕末期は、国内の政治混乱だけはなく、国外脅威も高まっていた時代でした。文久3年(1863)、徳川家茂が孝明天皇の求めに応じて京都にのぼっていたところ、前年に起こった生麦事件の賠償を求めて英・蘭・仏の艦隊が横浜港に現れたのです。砲撃の恐怖から江戸市中はパニックになり、慌てて江戸から避難する人びとを風刺した「あわて絵」が生まれました。
こうした社会情勢を背景に、国内では戊辰戦争の時代に突入します。この時期に制作された「子供遊び」の風刺画は、諸藩を虫や子どもに見立てたもので、一見和やかに見える世界のなかに、実際の戦争に対する期待や不安が映し出されています。

第5章 開化絵
西暦1868年7月、江戸は東京となり、その2か月後には元号が明治に改められます。この時期、舶来の西洋文明に心を躍らせる一方で、慣れない新たな文化に戸惑いを感じた人もいたことでしょう。そうした時代に活躍したのが昇斎一景(生没年不詳)です。代表作『東京名所三十六戯撰』では、江戸時代から親しまれた名所のなかで、近代化に右往左往する人びとを描いています。

第6章 錦絵新聞、西南戦争錦絵、そして小林清親の風刺画へ
明治浮世絵の特徴は、ジャーナリズムと結び付いていることです。明治5年(1873)2月には『東京日日新聞』が、同10年には西南戦争に取材した浮世絵が出版されています。そこでは社会の近況を報道する一方で、絵を見る人びとを楽しませるために大幅な脚色が加えられています。
明治後期になると、石版画や銅版画が台頭し、浮世絵版画を含む木版画の制作数は徐々に減少していきます。そうしたなか、戯画の分野で活躍したのが小林清親(1847~1915)でした。明治14年に「ポンチ絵」制作して以降、清親は西洋の風刺(カリカチュア)と一脈を通じる作を発表しつづけ、新たな様式をもって浮世絵戯画の掉尾を飾りました。

うき世のたわむれ:笑いつづける浮世絵と幕末明治の渦