アンドリュー・ワイエス展

開催概要

会期
2026年10月03日 〜 2026年12月06日
会場
あべのハルカス美術館 (大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階)
参加クリエイター
Andrew Wyeth
ジャンル
アート
タグ
絵画

開催内容

 「アメリカを描く」画家として国民的人気を誇り、日本にも多くのファンを持つアンドリュー・ワイエス(1917-2009)。没後、日本初となる待望の回顧展を、2026年10月3日(土)~12月6日(日)まで、あべのハルカス美術館で開催いたします。
 戦後アメリカ美術の前衛的動向からは距離を置き、ひたすら自分の身近な風景と人々を精緻な写実表現によって描き続けたワイエス。その作品は故郷ペンシルヴェニア州と、夏を過ごしたメイン州を舞台としたものに限られます。そこでワイエスが見出したものや感じとったもの、そして彼自身の人生経験によって培われた深い精神性が結びつくことで、地域を越え、国を越えて人々の心を動かす絵画が生まれていきました。
 本展では、ワイエスがしばしば描いた窓や扉といったモティーフを通して、「境界」という概念にも光を当てます。生と死という究極的な境界はもとより、日常においても私たちを物理的・心理的に隔てる「境界」とは何なのか。一方でそれは、とらえかた次第で、人や世界をつなぐ場にもなるのではないか…。日本初公開作品15点を含め、約100点のワイエスの絵画をじっくりと味わいながら、さまざまに想いを巡らせていただければ幸いです。
 本展の鑑賞チケットは7月4日(土)10:00より発売いたします。また、関連イベントとして本展を企画構成した高橋秀治氏(豊田市美術館 館長)による講演会や、ワイエスの画法であるテンペラを体験できるワークショップ、さらにワイエスの世界と日本酒とのコラボレーションをお楽しみいただけるイベントを開催いたします。鑑賞と合わせてぜひご体験いただければと思います。

[展示構成]
■第1章 ワイエスという画家
 ワイエスは、アメリカ美術の中で位置づけるのが難しい独自の絵画世界を作ってきた画家です。同時代の前衛的な芸術動向から距離を置き、生まれ故郷のペンシルヴェニア州と夏の家のあるメイン州という、少年時代から行き来した二つの地域の身近な人々と風景を描き続けました。自分が美術史上どう位置づけられるかというような意識など持たずに描かれたワイエスの作品は、彼自身を投影する私小説のようなものでした。しかし、単なる私小説に終わらず、それぞれの作品の中に普遍的なものを感じさせるところにワイエスの作品の本質があると言えます。

■第2章 光と影
 ワイエスは光と影を巧みに使用して描きますが、それは「生と死」という人が逃れられない命題と向き合った結果として、画面構成に表れたものでもありました。ワイエスが生と死を強く意識したきっかけは、1945年に踏切事故で父と幼い甥のふたりを亡くしたことでした。さらにその5年後には、肺疾患の手術中に一時的に心臓が止まるという経験をしており、死をより身近なものとして意識するようになります。しかしワイエスは生と死を対立したものではなくつながっているものと捉えており、彼の作品の根底には、「世の無常」という日本人にはなじみのある哲学が流れるようになっていきます。

■第3章 ニューイングランドの家:オルソン
 ワイエスは30年間に亘ってメイン州のオルソン・ハウスとそこに住むクリスティーナとアルヴァロのオルソン姉弟を描き続けます。進行性の病気によって脚が不自由でありながらも気高い独立心を持つ姉クリスティーナと、彼女を支えるために好きな海での漁を辞め、農作業に従事した忍耐強い弟アルヴァロ。二人の人間性にワイエスは強く惹かれました。また、メイン州が最初期に入植された土地であり、オルソン姉弟の父もまた移民だった点も見逃せません。ワイエスは姉弟の生活から、最初にこの地に入植し、アメリカの土台を作った人々の姿を思い浮かべていたのかもしれません。

■第4章 まなざしのひろがり
 ワイエスは、クリスティーナ・オルソンや隣人のカール・カーナーなど、同じ対象を描き続けたことが知られています。クリスティーナやカールの没後には、ヘルガ・テストーフがモデルとなりましたが、その後はより幅広いモティーフに気を留めて描くようになります。そして自宅の周囲を散策し、自分の心に「カチッ」とスイッチが入る瞬間を探し続けました。そうして選び取られた瞬間の景色や情景に通底しているのは、生の営みとそれに連続する死の影ともいえるもので、単に明るい平明な再現描写にとどまらない、人が生きることに感じる生の終わりをも描き込もうとしているようです。

■第5章 境界あるいは窓
 ワイエスが描いてきた対象は、自分が良く見知っている人や近隣の風景でしたが、単にそれを記録するのではなく、自らの心に響いたある瞬間を描きました。そうして生まれた作品の根底に流れているのは彼の抱いていた世の無常=死生観でした。直接的に死を扱った作品は多くありませんが、生と死を隔てる「境界」として、窓やドア、水路に張った氷が作品にあらわれます。しかし、それらの境界の向こう側とこちら側は、単純に生と死を対立させて表現しているのではありません。ワイエスにとって境界は、生と死をつなぐもの、連続するものの象徴として位置づけられています。

アンドリュー・ワイエス展