コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画
開催概要
- 会期
- 2026年07月03日 〜 2026年08月30日
- 会場
- 滋賀県立美術館 (滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1)
- ジャンル
- アート
- タグ
- 絵画
開催内容
昭和の「キャバレー王」として知られる福富太郎(ふくとみ・たろう 1931-2018)は、1964年の東京オリンピック開催による好景気を背景に、全国各地に44店舗ものキャバレー(舞台のショーを見たり、会話を愉しみながら飲食をおこなう娯楽施設)を展開した実業家です。時代の波に乗り事業を成功させる一方、父親の影響で少年期から美術に興味を持っていた福富は、やがて鏑木清方(かぶらき・きよかた)作品との出逢いをきっかけに、美術品の蒐集に熱中していきます。
コレクターの福富は、その作品が有名な作家の手によるものかどうかということではなく、たとえば梶田半古(かじた・はんこ)や渡辺省亭(わたなべ・せいてい)、富岡永洗(とみおか・えいせん)、鰭崎英朋(ひれざき・えいほう)や小村雪岱(こむら・せったい)など、当時一般にはあまり知られていない作家のものであっても、自身の眼で見て、良質であると信じた作品はコレクションに加えました。またコレクションに関連する資料や情報を熱心に集めて理解を深め、美術に関する文筆活動など、積極的な情報発信にも取り組みました。結果として、長らく埋もれていた作家が再評価される際や、ひとつの時代の特色について考察をおこなう展覧会において、福富が蒐集した作品の重要性が注目されるようになりました。
本展は、独自の信念のもと作品を追い求めた福富太郎の審美眼に焦点をあて、他に類を見ないコレクションの全体像を提示する貴重な機会となります。生前の福富と深い交遊があった山下裕二氏(美術史家、明治学院大学教授)を監修に迎え、福富が惚れ込んだ鏑木清方の10数点に及ぶ優品のほか、多彩な顔ぶれの画家による女性像、明治時代から第二次世界大戦を経て昭和40年代までの間に描かれた油彩画の数々など、魅力的な絵画作品80余点をご紹介いたします。
[みどころ]
1. なんといっても鏑木清方! 鏑木清方の優品10数点を展示
コレクター福富太郎にとって、美術作品を蒐集する大きなきっかけとなった鏑木清方(1878-1972)は特別な存在でした。本展では、清方の美人画の代表作のひとつとされる《薄雪》(1917年)や、妖艶な雰囲気が際立つ異色作《妖魚》(1920年)など、福富が心血を注いでコレクションした清方の優品10数点を展示します。また晩年の清方から福富に宛てた、2人の交流を物語る手紙も一部ご紹介します。
2. 女性の姿、古今東西 多彩な画家が描く女性の肖像
福富コレクションの特徴のひとつとして、日本画、油彩画ともに女性の姿を描いた作品の充実ぶりが挙げられます。本展では、全出品作80点のうち、実に68点が女性像、あるいは女性が登場する作品です。たとえば、上村松園(うえむら・しょうえん)《よそほい》(1902年頃)のような晴れの日の姿、北野恒富(きたの・つねとみ)《道行》(1913年頃)のような一途な愛を貫こうとする姿、また満谷国四郎(みつたに・くにしろう)《軍人の妻》(1904年)のような戦争への悲しみを見せる姿など、東西の画家が描く女性たちのさまざまな表現をご覧ください。
3. コレクターの審美眼にシビれる! 独自の信念で蒐集された作品群
福富は、従来の画家への評価などはあまり気にせず、自身が良いと感じた作品を積極的に蒐集しました。その結果として、日本画から油彩画まで、非常にバラエティ豊かで魅力的な作品が福富の手元に集まりました。福富コレクションの全貌を紹介する本展をとおして、コレクター福富太郎の審美眼のすばらしさとユニークさを感じていただけます。
4. 作品への思いが伝わる 福富の言葉を展示室に掲示
本展では、福富が残した言葉を展示室の各所に掲示。福富の蒐集作品や画家への思いを知ることができ、絵画作品と合わせて鑑賞することでコレクションへの理解がより一層深まります。
[展覧会構成]
Ⅰ コレクションのはじまり 鏑木清方との出逢い
1945年5月24日、東京都品川区中延に住んでいた13歳の福富(本名:中村勇志智(なかむら・ゆうしち)は、空襲に遭い命からがら逃げ出した。しかし父親が大切にしていた鏑木清方の掛軸を持ち出すことは叶わず、家屋もろとも焼失させてしまった。この体験が原点となり、のちに福富は清方作品の蒐集に熱中することとなる。
本章では、清方が作品との再会を喜んだと言われる《薄雪》や、発表当時も話題となった異色作《妖魚》など、実業家として事業を成功させた福富が特に情熱を傾けて蒐集した清方作品から、福富コレクションのはじまりを紹介する。
Ⅱ-1 女性像へのまなざし 東の作家
福富コレクションの核は、近代日本画の女性像である。清方への思慕からはじまった蒐集は、梶田半古、渡辺省亭、富岡永洗、鰭崎英朋、小村雪岱といった当時はあまり知られていなかった作家たちへと興味が広がっていった。コレクションには竹久夢二(たけひさ・ゆめじ)、伊東深水(いとう・しんすい)といった福富が蒐集をおこなっていた時期から評価の高かった作家も含まれているが、その作品はありきたりではなく、福富の審美眼によって選ばれたものであった。
本章では、院展や文展といった展覧会への出品作を中心に編まれてきた近代美術史とはまったく別の視点で蒐集された作品群について、女性像を中心に紹介する
Ⅱ-2 女性像へのまなざし 西の作家
東京都出身の江戸っ子ということもあり、まず関東の作家に関心を持った福富は、やがて蒐集の範囲を関西の作家にも広げていく。そのなかで特に福富が気に入り、愛着を持って手元に置いたのが、大阪で活躍した北野恒富の《道行》であった。やがて恒富に私淑した島成園(しま・せいえん)や、京都の作家、上村松園の作品もコレクションに加わった。本章ではそのほかにも、甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)、松浦舞雪(まつうら・ぶせつ)、寺島紫明(てらしま・しめい)らの作品も出品される。
Ⅲ-1 時代を映す絵画 黎明期の洋画
これまでの福富コレクションの展覧会では、日本画の女性像が紹介されることが多かったが、実は洋画にも重要な作品が多数収蔵されている。
本章では、日本における洋画(油彩画)の黎明期とも言える明治時代に活動した高橋由一(たかはし・ゆいち)、山本芳翠(やまもと・ほうすい)のほか、近年再評価が進んでいる川村清雄(かわむら・きよお)や、五姓田芳柳(ごせだ・ほうりゅう)、五姓田義松(ごせだ・よしまつ)、また彼らに大きな影響を与えた来日外国人画家のチャールズ・ワーグマンやジョルジュ・ビゴーなどの作品を紹介する。
Ⅲ-2 時代を映す絵画 江戸から東京へ
福富の蒐集は、作品の時代やジャンルを問わず、実に多岐におよんでいる。有名無名を問わず、自らの眼で惚れ込んだ作品は躊躇なく蒐集していったのであった。
本章では、そういった福富の審美眼によって選び抜かれた岡田三郎助(おかだ・さぶろうすけ)、萬鐵五郎(よろず・てつごろう)、岸田劉生(きしだ・りゅうせい)、村山槐多(むらやま・かいた)、佐伯祐三(さえき・ゆうぞう)などの作品を紹介する。
Ⅲ-3 時代を映す絵画 戦争画の周辺
幼少期に第二次世界大戦を体験した福富にとって、戦争を主題とした絵画とは、大きく心を動かされるものであったようだ。福富はいわゆる「戦争画」といわれる、戦争をテーマに描いた作品を熱心に蒐集した。そのうち、戦時中に描かれた藤田嗣治(ふじた・つぐはる)、向井潤吉(むかい・じゅんきち)などのきわめて重要な作品を含む約100点は、没後に東京都現代美術館に寄贈されたが、「戦争画の周辺」ともいうべき作品は、現在も福富コレクションに残っている。