PARALLEL MODE : オディロン・ルドン―光の夢、影の輝き
会期: 2025-04-12 - 2025-06-22
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
絵画
平面
トークイベント
開催内容
19 世紀後半から20 世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家オディロン・ルドン(Odilon Redon
1840-1916)。ルドンが描く、光と影が生みだす輝きを宿した夢幻の世界は、時代や地域を超えて、今なお多くの
人々を惹きつけています。我が国日本においても、ルドンの生前から彼の作品と芸術は紹介され、現代に至る
まで、美術や文学、音楽、漫画等、幅広い分野でインスピレーションを与え続けています。
ルドンが生きた時代の欧州では、アカデミックな芸術に対して印象派や象徴主義などの新たな芸術潮流が
次々と起こり、さらにはフォーヴィスムやキュビスムなどの様々な前衛美術が台頭しました。また、この時代には、
科学の発展による技術革新が社会構造や思想に多大な変化をもたらしました。ルドンは、こうした変貌する社会
と移り変わる芸術傾向と併走するかのように、作品発表の場や人脈を広げ、新しい画題に取り組み、木炭画や
石版画からパステル画や油彩画へと表現媒体を変えていきます。
本展は、世界有数の岐阜県美術館のコレクションを中心に、国内外の選りすぐりの作品を加えた約110点の
パステル画、油彩画、木炭画、版画などにより、近代美術の巨匠ルドンの豊穣な画業の全容をご覧いただくものです。
伝統と革新の狭間で、近代美術の巨匠ルドンが独自の表現を築き上げていく姿を紹介します。
みどころ
1.世界屈指のルドン・コレクションを誇る岐阜県美術館の所蔵品を中心に、国内外の作品により、ルドンの最初期から最晩年までの画業を紹介。
岐阜県美術館のルドン・コレクションは、世界でも傑出した高い質と量を誇ります。岐阜県美術館から出品される約80点の作品と、国内に所蔵される優品、さらにパリのオルセー美術館所蔵の油彩画と木炭画によって、本展は、ルドンの画業と芸術を初期から晩年まで余すところなく紹介します。
2.1890年代以降の色彩の時代のパステル画と油彩画がまとまって出品。
ルドンの作品といえば、異形のものたちが登場する黒色の暗い世界を想像する人も多いかもしれません。しかし、キャリアの後半は、肖像画、花の絵、神話画、 装飾画などを手がけ、より理解しやすい主題をパステルや油彩で色彩豊かに描きました。そうした作品には19 世紀後半から20 世紀初頭へと至るモダニズムの諸相と接しながら、独自の表現を見いだしていくルドンの姿がみてとれます。
3.《窓》が東京で初公開。また、石版画集『起源』が揃って展示される貴重な機会。
ルドンの晩年の主要な画題の一つである「ステンドグラス」を描いた《窓》(1906 年頃)が、本展(東京)で初公開されます。また、ルドン流の進化論といわれる石版画集『起源』が9点揃って展示されます。
展示構成
プロローグ:日本とルドン
評論としてルドンの名が登場する日本の文献の最も早い例は、洋画家石井柏亭が1912 年に『早稲田文學』に掲載した文章が知られています。以降、美術雑誌で図版とともにルドンの作品は定期的に紹介され、日本の美術愛好家や芸術家たちをおおいに魅了していきました。
早い時期にルドンの実作品を日本にもたらした人物として、のちの大原美術館の土台となるコレクションの選定を任された洋画家児島虎次郎がいます。そのほか、梅原龍三郎、中川一政、岡鹿之助、須田国太郎、伊藤清永などの洋画家や、竹内栖鳳や土田麦僊などの日本画家がルドンの作品を所有していました。ここでは、日本人画家旧蔵のルドンの作品を紹介し、ルドンの日本における受容の歴史の一端を紹介します。
第1章 画家の誕生と形成 1840-1884
ルドンは、ボルドーで水彩画家スタニスラス・ゴランから素描を学び、1864 年にパリに出て、ジャン=レオン・ジェロームの画塾で指導を受けます。帰郷後は版画家ロドルフ・ブレスダンから銅版画を学びます。また、ボルドーの植物学者アルマン・クラヴォーを通して、自然科学のみならず、文学や哲学の世界に触れ、その後の芸術表現の素地となる思想を形成していきます。
1872 年にパリに再び移り住んでからは、主に木炭画を制作し、奇怪な形態のモティーフが異様な雰囲気を醸し出す奇想の世界や、気球や電球など最新の技術への関心を、モノクロームで表現していきます。一方で、石版画にも取り組み、『夢のなかで』(1879 年)、『起源』(1883 年)などの石版画集を立て続けに刊行します。ここでは、郷里を描いた風景画から、木炭画、初期の石版画集まで、画家としての形成期の作品を展覧します。
第2章 忍び寄る世紀末:発表の場の広がり、別れと出会い 1885-1895
ルドンの木炭画と石版画の黒で描かれたイメージは、作家ジョリス=カルル・ユイスマンスがルドンの芸術を世紀末のデカダンの象徴として紹介したことで、フランス、ベルギー、オランダの文学者を中心に注目を浴びました。
1890 年代になると、ルドンは徐々に収集家や美術商、画家仲間との新たな人脈を構築し始めます。一方で、ナビ派を中心とする若い芸術家たちからは、新しい芸術への先導者として慕われるようになっていきます。時を同じくして、ルドンの作品の主題は闇の世界ではなく神秘的な光の世界が選ばれるようになり、その黒色は、光を吸収するかのような暗闇を表現するものから、光そのものを表現するものへと変容していきます。また、油彩やパステルによる制作も始まります。
ここでは版画を中心とする「黒」の作品から、色彩への志向の萌芽が見られる作品までを紹介します。
第3章 Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916
1896 年、パリの凱旋門近くに居を構え新しい環境での制作を始めたルドンは、ナビ派の画家たちが挑戦していた装飾的な絵画にも取り組むようになります。引き続き神秘的な主題を扱う一方で、神話、宗教、人物などわかりやすい主題も手掛け、なかでも、「花瓶の花」は晩年のルドンを代表する画題となります。技法や表現についても、種類の異なるパステルの重なりがもたらす光の効果や、油絵具でありながらパステルのような輝きを発する描き方を追求し、進化を遂げます。
1900 年、パリ万国博覧会でルドンの作品が展示され、ルドンの国内での評価はますます安定的なものとなります。1903 年にはレジオン・ドヌール勲章を受章し、さらに、1904 年のサロン・ドートンヌではルドンに一室が与えられます。最晩年の1913 年には、アメリカを舞台としたアーモリー・ショーに出品するなど、世界的にもルドンは確たる地位を築いていきます。
本章は、「黒」の時代最後の作品からスタートし、晩年の色彩の輝きに満ちたパステル画、油彩画で締めくくります。