奏でる家にて、昨日が手を振る 三田村 光土里

開催概要

会期
2023年09月30日 〜 2023年11月11日
会場
ZEIT-FOTO Kunitachi (東京都国立市中2-22-33)
参加クリエイター
三田村光土里
ジャンル
写真

開催内容

この度、ZEIT-FOTO Kunitachiでは三田村光土里「奏でる家にて、昨日が手を振る」を開催いたします。

三田村光土里は1990年代初頭、自身や家族の古い写真を素材とした立体作品を制作し始め、部屋や家を題材にしたインスタレーションを発表してきました。
今回の展示では、それらの造形作品を、故・石原悦郎の私邸であるツァイト・フォト国立において再構成するとともに、石原邸に遺されたレコードや古い写真アルバムを元にした新作ドローイングを公開制作します。また、2000年にツァイト・フォト(日本橋室町)で開催された三田村光土里個展「INVENTIONS」の映像作品も展示いたします。

昭和の高度成長期を経た二つの無縁なはずの家の記憶が、そこに在った人の営みを追想するとともに、平行する人生の時間が交差し出会う未来の風景として現れます。

幼い頃、父母と兄、姉、私の五人家族が暮らした小さな平屋の家。物心ついてからの記憶は、8歳上の姉が練習するピ アノの音と、家に帰りたくて保育園で抵抗する毎日で始まる。会話も給食もトイレまでも拒否し、母親が迎えに来るのを 待って一日中泣き暮らす、そんな幼い世捨て人のような生活が卒園まで続いた。
 11歳上の兄は、中学の頃から物置小屋を改築した離れに住まわされていたが、それでも手狭になった我が家は近所に家を新築することにした。私は10歳になり、家では毎日、姉が音大受験のために猛練習するベートーヴェンのピアノソナタが鳴り響いていた。1970年代前半、家に集められた住宅建築の雑誌には鉄筋コンクリートのモダンな邸宅が輝いていて、ページを繰り返 し眺めては、こんな家に住むのだろうかと、子供ながらに遠くの誰かの洗練された住まいに魅了された。

 完成した家は雑誌のイメージとはかなり違う日本家屋だったものの、一人で目覚める部屋や姉のグランドピアノが聴こえる家は、以前とは見違える暮らしに思えた。
 古い家は貸家にしていたが、数年前に空き家となってからは私の作品倉庫と化した。大人になって初めて足を踏み入れると、アップライトのピアノや勉強机が並んでいた部屋のなんと小さなことか。東京に出て現代美術に目覚めてから、この家で寝た二段ベッドや本棚を引っ張り出して、そこに幼い自分や家族の写真を施して作品にした。それらを数十年ぶりに運んで戻すと、過去に生きていた私たち家族が造形物に姿を変えて還ってきたような不思議な光景が現れた。

 初めて石原邸を訪れたとき、まさにあの建築雑誌の中の世界に再会したような気がした。1968年に建てられたという邸宅には、石原氏が蒐集したクラシックのレコード盤が遺され、主人亡き後も時々その音が奏でられる。国立(くにたち)の瀟洒な住宅街にこの家が建ったばかりの頃、名古屋郊外の保育園では一人の女児が帰宅を訴え、日がな一日泣き続けていたのだ。家に帰り、飽きることなく絵を描くのだけを悦びに。

 今ここに、奏でる家から奏でる家へ、遠い記憶の像を纏った作品たちを招き入れ戯れさせてみよう。遠足の集合写真に並ぶ不機嫌な園児の私が、未来に住む私を不安げな目で睨んでいる。なんて遠くまで来てしまったのかと。
 人生は短かくとも一瞬は永遠にそこに在るように、奏でる家で、昨日が手を振っている。

三田村 光土里

奏でる家にて、昨日が手を振る 三田村 光土里