小林寛人個展 KOBAYASHI HIROTO Solo Exhibition
開催概要
開催内容
彼はいつも同じ視座から、物事を見つめている。彼が作家として表現したい物も、おそらく変わっていない。経験を重ね、深く、明快になっているとは感じるが。彼とは6年の交流があり、その間お互いの制作を見続けて来た。彼のここ数年間の制作を見る限り、彼はずっと同じ事をしている。表現に不要な物は排除し、画面に定着させる。削ぎ落とす事で、画面をより密度の濃い物にし続けている。
一緒にグループ展を行った2007年の作品ではすでに、色彩の響き合いは最小限になっていた。使われた絵具はホワイトとアンバーのみで、ペインティングナイフでぼんやりと描かれた椅子のある風景が描かれているだけだった。写真を撮ったら、白飛びしそうなくらい明るいトーンで描かれた画面の中で、彼の仕事の痕跡とモチーフはシンプルかつ複雑に絡み、響きあっていた。その後、発表を重ねるごとにモチーフは抽象的な図形やイメージとなり、その重要性は希薄なものになっていった。その事で彼の仕事はさらに際立ち、観る者の感性により強く訴えかけるようになっていた。
そして今回。制作された6点の作品からは、彼の仕事の痕跡しか認識できない。ナイフで2色の絵具を画面に重ねて行く。その積み重ねのみが画面を形作っている。
そこには、作者の主張すらも描かれていない。表現したい物を見つめ続け、余計な物を無くした結果、残ったのがこれらの痕跡なのであろう。
今回の展示は、彼の作品としてはこれまでで最も抽象性の高い物である。これらを眺めるとき、今を生きる彼の、思索の道程を絵具の重なりから見出される。彼は今までで最も少ない要素によって、彼や彼の作品を観る者、そしてそれを取り巻く世界のありようそのものを認識しようとしているように感じる。そのことはまた、自分自身がいま、ここに確かに存在しているのだという内省的な認識をも促す。その距離感はとても心地よく、落ち着き、観る者を自由な思索の世界に連れ出してくれるであろう。
(金子真之介)
<後援>北國新聞社 北陸放送 テレビ金沢 エフエム石川 FM-N1 ラジオかなざわ