スタシス・エイドリゲヴィチウス: イメージ ー記憶の表象
開催概要
- 会期
- 2019年09月02日 〜 2019年11月09日
- 会場
- 武蔵野美術大学 美術館・図書館 (東京都小平市小川町1-736)
- ジャンル
- アート
- タグ
- 平面
開催内容
このたび、武蔵野美術大学 美術館・図書館では、ポーランド共和国と日本の国交樹立100周年を記念して、展覧会「スタシス・エイドリゲヴィチウス:イメージ -記憶の表象」を開催いたします。
当館が収集してきたポーランドポスターは800点を超え、ポスターコレクションの中で一つの重要なジャンルを形成しています。また、1990年代から現在までポーランドポスターやアーティストブックの展覧会を度々開催してきましたが、特にその中でもリトアニア出身で、ポーランドを代表する作家であるスタシス・エイドリゲヴィチウス(1949-)は重要な位置を占めています。
これまで日本では、スタシス作品においてはポスターや絵本を中心に紹介されてきましたが、本展では彼の50年以上に及ぶ活動の中から、スタシス本人が作品選定に関わり、日本で展示される機会の少なかった最初期のエクスリブリス(蔵書票)、ミニアチュール(細密画)や写真作品を中心に紹介します。さらに、絵本の原画やドローイング、演劇など多様な作品群を展示し、その創造領域の広がりを展観します。特に、スタシス自身の「記憶の表象」として描かれた人物像をめぐって、多様な表現メディアに描き出された故郷リトアニアの〈原風景〉や、ポーランドで確立した〈演じる〉〈覆う〉などの〈マスク〉を介した比喩的表現に焦点をあて、作品の根底に流れるスタシス自身の「記憶の源泉」をたどります。様々な分野の作品に広がるスタシスの描画による表現と思考の探索、その創造の根底に流れる記憶の表象、「リトアニアの土とワルシャワの風を混ぜ合わせる」* とも言われる多様な技法を駆使した表現を探求し、スタシス作品の魅力の本質に迫ります。
※グラフィックデザイナーの田中一光が2002年にスタシスに贈った言葉より
展示構成
Ⅰ 窓の向こう
スタシスの創造の原点である故郷リトアニアの地で生まれ育った頃の「記憶」。そこには、社会的不安のなかにありながらも、美しくあり続けた故郷の風景と家族の姿が存在し、その記憶はスタシスの世界観を読み解くキーワードとなっています。展示では、初期作品として、1960 から80 年代に撮影された故郷の風景や家族との暮らしが写し出された写真15 点、スタシス作品に通底するイメージの源泉とその幻想的な魅力が小さな画面に凝縮された1970 年代のテンペラによるミニアチュール(細密画)131 点を紹介します。フレーム(=窓)の向こうに広がるスタシスの原風景(=立ち返る場所)を探ります。
Ⅱ 紙の上の対話
スタシスにとって、ドローイングは記憶をとどめたり、蘇らせたりする上で、大切なツールです。日常のあらゆる事象の「記憶」が表出されたドローイングは、すべての制作の端緒であり、スタシスが何を思考し、記憶に留めようとしているのかが現れています。展示では、これまでほとんど公開されていない、スタシスが常に持ち歩いてきたスケッチブック64 点を展示します。また、アイデアを醸成するプロセスを収めたパステルによるドローイング150 枚以上を合本したダイアリーブックなどをスライドで閲覧できるコーナーを設けるほか、様々な表現方法を模索する様が垣間見えるようなドローイング128 点とコラージュ作品25 点を紹介します。
Ⅲ フェイスあるいはマスク
「フェイス/マスク」はこれまでスタシスが描いてきた一貫したテーマです。空想の世界や見たことのない情景を描きだすなかで、顔は心情を表現する重要なモチーフであり、人間の内面を表すメタファーとして現れます。展示では、スタシスの代表的な技法でもあるパステル画を中心に、顔の切り抜きや、実在の人物の顔を原型につくられたマスク、当館所蔵のポスター作品を展示します。メディアを横断して様々な形態へと展開する作品を通して、人間の日々の営みと背景にある社会のメタファーとしてフェイスあるいはマスクに現れる顔の表情、その豊かな想像力による表現の展開を探ります。
Ⅳ イメージと言葉
イメージと言葉とが共生する絵本の創作においても、その物語のなかでスタシスは独自の解釈に基づいた表現を展開しています。展示では、1970 年代から90 年代までの代表的な絵本作品を中心に、パステル、水彩で描かれた原画27 点を紹介するほか、手に取って絵本を読むことができるコーナーも設けます。また、エクスリブリス(蔵書票)は、スタシスの創作活動の原点であり、国際的アーティストとしてのキャリアを築く礎となりました。初期のリノカット、エッチングから、1971 年以降はアクアチント、メゾチント、ドライポイントなどへと展開していく技法の変遷をたどり、自由な表現を求めて創作を展開したスタシスのエクスリブリス215 点を紹介します。一枚の紙に描かれたスタシス独自の物語の世界が広がります。
Ⅴ 遍歴する身体
身体表現への展開は、独創的な発想で創作領域を自在に広げていくスタシスの創造力を象徴しています。人間のあり方や世の中のあり様を一つのメタファーとして語ってきたスタシスは、直接的な身体表現の可能性に惹かれ、記憶をめぐる新たな表現の場を見出します。展示では、舞台美術から演出まで総合美術として手がけた、故郷を題材にした演劇『白い鹿』(1993)と『木の人間』(2007) の映像を上映するほか、2000 年頃から制作されたマスクと身体をテーマにした写真作品を紹介し、スタシスの人間をめぐる眼差しの意味を考えます。