狩野哲郎「測地とカモフラージュ、すべての部分が固有の形になる」
会期: 2019-04-20 - 2019-05-25
参加クリエイター:
展覧会詳細
展覧会ジャンル:
アート
展覧会タグ:
インスタレーション
彫刻
平面
開催内容
ユカ・ツルノ・ギャラリーは、狩野哲郎の個展「測地とカモフラージュ、すべての部分が固有の形になる / Surveying, Camouflage and Every Part Unique」を2019年4月20日(土)から5月25日(土)まで開催いたします。本ギャラリーでの2 年ぶりとなる本個展では、東京や鳥取を始め、アメリカ、シンガポール、フィンランド、ノルウェーなど世界各地での滞在制作や旅先の中で採集された素材とその経験を取り入れながら、これまでの狩野の取り組みを更新していくかのように発展した新たな平面作品と彫刻のインスタレーションを発表します。
狩野は一貫して生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルの環世界の概念をもとに、各々の生物がそれぞれの知覚によって見出す世界の多様性に興味をもってきています。作品では頻繁に“木”や“鳥”、“植物”が言及され素材としても多く使われていますが、それは人間にとって一本の木として知覚されるものが鳥や植物といった異なる知覚や生態を持つ生物にとっては全く違う役割を果たしているという環世界の象徴として表れています。狩野はその思弁的な思考を、身の回りの日用品や道具を用いながら、人間によって意味付けされてきた記号や価値、空間的な役割を解体した上で新たな環境の創造として実践してきました。その実践は、屋外に広がる外部環境に溶け込むように形成されるサイトスペシフィックなインスタレーションや、鳥や植物を内包することによって作家の意図を超えて推移するインスタレーション、細やかな部分が繊細に均衡を保たれた彫刻、定型的なパターンやシールを使いながらも独自の形態を生み出していくドローインなどとして展開されてきました。
2017年以降は、建築学者/建築家のクリストファー・アレグザンダーの提唱した、生態に即して時間をかけて作り上げられる豊かなで複雑なセミ・ラティス構造の「自然都市」に、環境としての”木”を重ね合わせるようになります。同時に、宙に吊り下げられたモビール作品を作り出すようになったことから、断片的な部分が全体としていかに形成されていくかという構造自体にもより重点が置かれるようにもなったと言えるでしょう。また、新たなシリーズ「Every Part Unique / すべての部分が固有の形になる」は、鳥取のHospitale Project や府中市美術館での滞在制作の中で培われたもので、“作業机の上の素材-テンポラリーなインスタレーション-確定された彫刻”を行き来する状態として、これまでの狩野の思考/試行と作品としての実践を同時に試みたものです。
本展では、世界各地での滞在制作後、今年の始めに宮城県美術館でのグループ展にて発表した作品とともに、未発表の新作作品を展示いたします。これまでの制作におけるマクロとミクロが独自に混じり合った感覚はより研ぎ澄まされ、使用される素材も、北海道や東京近郊で集められた枝や木の葉、木の実、動物の角や牙、鳥取や沖縄の海の漂着物、インドネシアのガラス、アラビアの天然樹脂、西ヨーロッパの瓦礫など多岐にわたるようになっています。
̶̶̶̶
ここに鳥がいるものとする。
植物学の定義に拠らない植物的なもの。
言語や記号として統制されていない純粋な標識。
基準点を失った後のための測量のプラクティス。
何かを擬態しない幾何学的カモフラージュ。
自然発生し得ない構造物の野生化。
さまざまな世界認識のための都市としての木。
鳥はたとえ見知らぬあたらしさの中でも、いつでも想像力を持って空間に反応する。歩き、跳ね、飛び、突き、彼/彼女たちの世界認識で絵を見て、彫刻を見つけるだろう。この一点において動物は絶対的に信用のおける他者である。
コラージュ/アッサンブラージュ的方法で制作された作品に内包される個々の部分には名前があった。作品として意味と機能と価値から逸脱して組み合わせられたそれらの部分-枝、鹿角、釣り具、燭台、ガラスの破片などには、既に固有のかたちが与えられていた。色彩と形態と質感を手がかりに鳥や植物の世界認識への想像力をもって、それらの部分を整列、接続し均衡をはかる。その状態は、平面上のランドスケープとなり、空間に描かれたドローイングとなる。同時に、絵か彫刻かもしれなかった。
作品の完成形への工程の逆算とは無関係に色彩/形態/質感の選択が繰り返されることは非合理的なプロセスのようでありながら、まだ存在しない可能性を持った何かを作るための方法であるように思う。
無名だけれどすてきな雰囲気をもう一度思い出すための方法、あるいはその瞬間を目にするための方法を探す。合理的な方法ではたどりつく事が困難なものごとのすてきさを目にするために「何かについてのスタディ」をつづける。予定された調和の少しだけ外側にすてきな瞬間はいつもある。
狩野哲郎