近作に『線の形象』という題名を付けました。これは描く行為を前面に出した『線の気韻』、また絵の具が作り出す自然な表情に寄り添った『土の記憶』とは少し違った方向性の作品です。今回の題名は、同じところに同じように何回も線を重ねることで、もとの線とは異なる大きな塊の新たな形象が生まれるという意味を持たせました。
画面に現れた形象は絵具の量感によって一瞥は面的に見えますが、意識としてはあくまで線の集積です。また、出現したかたちは具体的なもののようであって、抽象的です。また抽象的ですが具体物にも見えます。線と面、物質とイメージ、具象と抽象といった両義性を持った画面が生まれるときが、表象の始まりであり絵画が立ち現れる瞬間です。その瞬間のリアリティーを留められたら幸いです。
菊地武彦
[コンセプト]
プリニウスは『博物誌』の中で、ある娘が恋人の影の輪郭をなぞったことから絵画が始まったという逸話を残しています。この物語のひとつの解釈として、絵画の起源が線を引くことであると理解できます。線は実在と不在、行為と痕跡、物質とイメージなど様々な設問を同時に含んでいますが、それは絵画が太古の混沌を含む多様な構成体であることを示しています。絵を描くこと=線を引くことはそのような始原に立ち返ることであると言えます。
In Natural History, Plinius gives us a story of a girl who drew a silhouette of a lover, which resulted in the origin of paintings. From this story, we can formulate a hypothesis that the origin of paintings is to draw a line. A line contains various questions such as existence and absence, action and trace, and material and image, which shows us the fact that a painting is a structure with variety, containing ancient chaos. Painting a picture as drawing lines can bring us back to such origin.
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