「記憶」
人間は、自分の経験した出来事や、自分の中に生まれた感情の影響を受けながら生きている。経験や感情は、記憶となって心に積み重なり、皺やしみとなって皮膚に刻み込まれ、その人の経た年月なりの「個性」として、内面や外見に現れる。これは、「もの」であっても同じだろうと私は考える。同時期、均一的に大量生産された「もの」であっても、その後、どんな環境で、どんな人間に、どのように使われるかによって、傷や汚れ、錆といった、それぞれ異なる「個性」を身につけていく。それは「老朽化」などという言葉では片づけることのできない、ユニークで魅力的な形態であり、質感であると同時に、「もの」がこの世に生きた証であり、近くこの世から消え去る運命を表す印でもあると思う。写真を始めてからずっと「もの」を撮り、後ろの人間について考えてきた。今後も、人間や「もの」が生きた年月や、積み重ねた記憶に心を寄せながら、写真と関わっていきたい。
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